このまま真っ直ぐ進めば、あと十分もしないうちに駅に着く。
これまで通りの帰り道、のはずだった。
「ねえ」
突然立ち止まったかと思うと、一晴が前を見据えたまま声を上げた。
雨音は反射的に立ち止まり、一晴の顔を見上げる。
しばらく雨でよく見えない道の先を見つめていた一晴は、雨音の顔を見下ろして言った。
「小森さん」
「はい?」
一晴は道の先を指さし、口元に笑みを浮かべる。
「今日さ」
雨で霞む向こうに、分かれ道が微かに見える。左へ行けば駅。右へ行けば住宅街の奥へ続く道。
一晴はその右の道をちらりと見てから、また雨音を見て少しだけ笑った。
「ちょっと寄り道しない?」
「……寄り道?」
「うん」
雨音はきょとんと目を瞬かせ、首を傾げた。
幼子のような笑顔を浮かべる一晴は、傘を持つ手に力を籠める。雨音はその些細な変化に一瞬だけ目を向け、そしてすぐに一世の顔を見上げた。
「何処、に……?」
「この先にさ、公園があるんだよ」
「公園?」
「そうそう。小さいとこだけど」
そう言ってから、もう一度歩き出した一晴は肩を竦めて見せる。
「駅まで真っ直ぐ帰るのも、なんかもったいない気がして」
住宅街の中を歩きながら、雨音は少しだけ迷った。
家に帰るだけなら、このまま駅に向かえばいい。寄り道なんて、普段はほとんどしない。
けれど、少しだけ。ほんの少しだけ、悪くはないなと思ってしまった。
(早く決めなきゃ、分かれ道が……)
雨音は少し考えてから、やがて小さく頷いた。
「……いいですよ」
「ほんと?」
「はい」
雨音がいつもの口癖を言って頷くと、一晴は嬉しそうに笑った。
何を思ったのか、傘を握っている左手から右手へと持ち替え、開いた左手で雨音の右手を握る。
「じゃ、こっち」
そう言って、手を繋いだまま一晴は駅とは反対の道へ歩き出した。雨の中、二人はゆっくりと進んでいく。
やがて住宅の間を抜けると、小さな公園が見えてきた。
濡れたブランコ。
水を溜めた砂場。
誰もいない静かな遊具。
夕方の雨に包まれたその場所は、まるで世界から少しだけ切り離されたみたいに静かだった。
一晴は公園の入口で立ち止まる。
「ここ。俺、たまに来るんだよね」
公園の中は、しんと静まり返っていた。雨のせいか、人の気配は何処にもない。
遊具の上にも、砂場にも、濡れた雨粒だけが落ち続けている。
一晴は迷いなく、公園の奥にある小さな東屋へ向かった。
四本柱の簡単な屋根が付いた休憩所で、その下には古い木のベンチが置かれている。
「ここなら濡れないかな」
そう言って、一晴は先にベンチへ腰掛けた。雨音も傘を閉じてから、その隣に座る。
屋根に当たる雨の音が、すぐ頭の上で響いていた。
これまで通りの帰り道、のはずだった。
「ねえ」
突然立ち止まったかと思うと、一晴が前を見据えたまま声を上げた。
雨音は反射的に立ち止まり、一晴の顔を見上げる。
しばらく雨でよく見えない道の先を見つめていた一晴は、雨音の顔を見下ろして言った。
「小森さん」
「はい?」
一晴は道の先を指さし、口元に笑みを浮かべる。
「今日さ」
雨で霞む向こうに、分かれ道が微かに見える。左へ行けば駅。右へ行けば住宅街の奥へ続く道。
一晴はその右の道をちらりと見てから、また雨音を見て少しだけ笑った。
「ちょっと寄り道しない?」
「……寄り道?」
「うん」
雨音はきょとんと目を瞬かせ、首を傾げた。
幼子のような笑顔を浮かべる一晴は、傘を持つ手に力を籠める。雨音はその些細な変化に一瞬だけ目を向け、そしてすぐに一世の顔を見上げた。
「何処、に……?」
「この先にさ、公園があるんだよ」
「公園?」
「そうそう。小さいとこだけど」
そう言ってから、もう一度歩き出した一晴は肩を竦めて見せる。
「駅まで真っ直ぐ帰るのも、なんかもったいない気がして」
住宅街の中を歩きながら、雨音は少しだけ迷った。
家に帰るだけなら、このまま駅に向かえばいい。寄り道なんて、普段はほとんどしない。
けれど、少しだけ。ほんの少しだけ、悪くはないなと思ってしまった。
(早く決めなきゃ、分かれ道が……)
雨音は少し考えてから、やがて小さく頷いた。
「……いいですよ」
「ほんと?」
「はい」
雨音がいつもの口癖を言って頷くと、一晴は嬉しそうに笑った。
何を思ったのか、傘を握っている左手から右手へと持ち替え、開いた左手で雨音の右手を握る。
「じゃ、こっち」
そう言って、手を繋いだまま一晴は駅とは反対の道へ歩き出した。雨の中、二人はゆっくりと進んでいく。
やがて住宅の間を抜けると、小さな公園が見えてきた。
濡れたブランコ。
水を溜めた砂場。
誰もいない静かな遊具。
夕方の雨に包まれたその場所は、まるで世界から少しだけ切り離されたみたいに静かだった。
一晴は公園の入口で立ち止まる。
「ここ。俺、たまに来るんだよね」
公園の中は、しんと静まり返っていた。雨のせいか、人の気配は何処にもない。
遊具の上にも、砂場にも、濡れた雨粒だけが落ち続けている。
一晴は迷いなく、公園の奥にある小さな東屋へ向かった。
四本柱の簡単な屋根が付いた休憩所で、その下には古い木のベンチが置かれている。
「ここなら濡れないかな」
そう言って、一晴は先にベンチへ腰掛けた。雨音も傘を閉じてから、その隣に座る。
屋根に当たる雨の音が、すぐ頭の上で響いていた。



