そうして代わりに生まれたのは、今の雨音が知る一晴だった。
凌は、何処か遠くを見るような目でそう言った。
明るくて。
誰とでも話して。
教室ではいつも中心にいて、周りには自然と人が集まる。
雨音が知っている、成瀬一晴に。
「まあ、あいつなりに頑張った結果なんだろうけどさ」
凌は小さく笑った。けれど、その笑みは何処か軽くなくて、ほんの少しだけ寂しそうに見えた。
窓から入り込む風が彼の襟足を揺らす。
凌は腕を組んだまま、廊下の床に視線を落とした。
「俺からするとさ」
落としていた視線を少しだけ雨音の方に向け、ゆっくりと瞬きをする。
向けられる視線に雨音は気付いたけれど、俯いたまま言葉の続きを待った。
「……たまに分かるんだよ」
その言葉に、雨音は思わず顔を上げる。
今まで絶妙に交わらなかった視線が交わった。凌が向けるのは、さっきまでの緩い雰囲気とは少し違う、何処か静かな目だった。
「あいつ、まだ無理してるなって」
廊下を、静かな風が通り抜ける。渡り廊下の向こうには、夏の空が広がっていた。
雨音は何も言えず、胸の奥にじんわりと何かが沈んでいく感覚に耐えることしかできない。
(成瀬さん……どうして)
頭の中に浮かぶのは、あの日の帰り道だった。
雨が降る放課後。
同じ傘の下で駅まで並んで歩いた、あの短い時間。
その途中で、一晴がぽつりと言った言葉。
『小森さんといるとさ、ありのままでいられるんだよね』
あの時は、冗談なのか本気なのかも分からなくて、どう返事をすればいいのかも分からなかった。
けれど、今になって、その意味がほんの少しだけ分かった気がする。
それに築いた瞬間、胸の奥が静かに重くなった。
凌はふっと視線を外し、また窓の外を見上げる。青い空を眩しそうに細めた目で見ながら、軽く息を吐いた。
「……だからさ、小森さんと一緒に帰るとこを見た時、ちょっと意外だったんだよね」
雨音は何も言えず、廊下の床に視線を落とし続けた。
凌は肩を竦めるようにして、小さく笑う。
「いや、別に悪い意味じゃなくて。ただ、俺が知ってるあいつは、ああいう風に誰かと落ち着いて歩くタイプじゃなかったから」
そう言ってから、少しだけ考えるように黙った。
それから、ふっと力の抜けた声で続ける。
「でもまあ」
肩を竦めながら、雨音の方へちらりと目を向けた。
「あいつが楽しそうにしてるなら、それでいいのかもなって思ってる」
言い終えてから、凌はまた空を見上げた。
まるで、何処か遠くにいる昔の友達を思い出すみたいに。
凌は、何処か遠くを見るような目でそう言った。
明るくて。
誰とでも話して。
教室ではいつも中心にいて、周りには自然と人が集まる。
雨音が知っている、成瀬一晴に。
「まあ、あいつなりに頑張った結果なんだろうけどさ」
凌は小さく笑った。けれど、その笑みは何処か軽くなくて、ほんの少しだけ寂しそうに見えた。
窓から入り込む風が彼の襟足を揺らす。
凌は腕を組んだまま、廊下の床に視線を落とした。
「俺からするとさ」
落としていた視線を少しだけ雨音の方に向け、ゆっくりと瞬きをする。
向けられる視線に雨音は気付いたけれど、俯いたまま言葉の続きを待った。
「……たまに分かるんだよ」
その言葉に、雨音は思わず顔を上げる。
今まで絶妙に交わらなかった視線が交わった。凌が向けるのは、さっきまでの緩い雰囲気とは少し違う、何処か静かな目だった。
「あいつ、まだ無理してるなって」
廊下を、静かな風が通り抜ける。渡り廊下の向こうには、夏の空が広がっていた。
雨音は何も言えず、胸の奥にじんわりと何かが沈んでいく感覚に耐えることしかできない。
(成瀬さん……どうして)
頭の中に浮かぶのは、あの日の帰り道だった。
雨が降る放課後。
同じ傘の下で駅まで並んで歩いた、あの短い時間。
その途中で、一晴がぽつりと言った言葉。
『小森さんといるとさ、ありのままでいられるんだよね』
あの時は、冗談なのか本気なのかも分からなくて、どう返事をすればいいのかも分からなかった。
けれど、今になって、その意味がほんの少しだけ分かった気がする。
それに築いた瞬間、胸の奥が静かに重くなった。
凌はふっと視線を外し、また窓の外を見上げる。青い空を眩しそうに細めた目で見ながら、軽く息を吐いた。
「……だからさ、小森さんと一緒に帰るとこを見た時、ちょっと意外だったんだよね」
雨音は何も言えず、廊下の床に視線を落とし続けた。
凌は肩を竦めるようにして、小さく笑う。
「いや、別に悪い意味じゃなくて。ただ、俺が知ってるあいつは、ああいう風に誰かと落ち着いて歩くタイプじゃなかったから」
そう言ってから、少しだけ考えるように黙った。
それから、ふっと力の抜けた声で続ける。
「でもまあ」
肩を竦めながら、雨音の方へちらりと目を向けた。
「あいつが楽しそうにしてるなら、それでいいのかもなって思ってる」
言い終えてから、凌はまた空を見上げた。
まるで、何処か遠くにいる昔の友達を思い出すみたいに。



