駄目だったんだろうな。補修確定したんだろうな。そんな予想が柔らかく浮かび上がる。
絶望した顔をしていたかと思えば、くだらない話で笑う一晴は忙しそうだ。休み時間に入るなり彼の周りには人が集まる。
その反面、雨音は教室の端で本を読むだけ。机の周りどころか、教室の半分より後ろには誰もいない。
人に囲まれる一晴と、一人でいる雨音の視線が交わることはないのである。
☂
授業が終わっても、一晴と目が合うことはなかった。
昼休みも、帰りのホームルームも。
本当にただのクラスメイトでしかないのだと、無理矢理にでもそう思い込ませようとしているようで。
関係性はそれ以上でも、以下でもないらしい。
「小森、これ職員室まで運んでくれるか」
帰り支度をしていた雨音は、教室を出ようとしたところで担任に呼び止められた。
振り返った雨音に見せつけるように、担任は教卓の上を指し示す。
教卓の上には、数学の分厚い問題集の束が山積みになっていた。
また、いつものパターンだ。担任は雨音が頼まれると断れない質であることをよく知っている。
毎度の如く、その性質を利用された。もう嫌気が差しているのに、やっぱり断れない。
「……はい、いいですよ」
力なく頷けば、こういう時だけ担任は雨音に笑顔を向ける。
手渡された問題集を両腕いっぱいに抱えて、廊下を歩き始めた。
夕方の校舎は、昼間よりも静かだ。生徒達が下校して、クラブ員が運動場や音楽室などで練習に励んでいる。
特別な理由もないのに校舎に残っているのは、雨音くらいのものだった。
「っ……どうしよう」
職員室の前に立ち、どうしようかと一瞬迷う。
両手が塞がっている。ノックができない。足で、そっと扉を蹴るわけにもいかない。
一旦、何処かに問題集を置くか。いや、棚の上には優勝トロフィーやら大学案内のチラシで埋まっている。
流石に人の問題集を床に置くわけにもいかない。誰も見ていないだろうけれど、案外見ているかもしれないから。
(お、重い……っ)
問題集の角が腕に食い込む。思ったよりも重いし、掴む指先で血流が止まっている。
ほんの数秒のことなのに、妙に長く感じた。
職員室の中からは、先生達の低い声と、書類を捲る音が微かに聞こえてくる。
扉一枚向こうは日常なのに、ここだけが取り残されたみたいだ。
絶望した顔をしていたかと思えば、くだらない話で笑う一晴は忙しそうだ。休み時間に入るなり彼の周りには人が集まる。
その反面、雨音は教室の端で本を読むだけ。机の周りどころか、教室の半分より後ろには誰もいない。
人に囲まれる一晴と、一人でいる雨音の視線が交わることはないのである。
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授業が終わっても、一晴と目が合うことはなかった。
昼休みも、帰りのホームルームも。
本当にただのクラスメイトでしかないのだと、無理矢理にでもそう思い込ませようとしているようで。
関係性はそれ以上でも、以下でもないらしい。
「小森、これ職員室まで運んでくれるか」
帰り支度をしていた雨音は、教室を出ようとしたところで担任に呼び止められた。
振り返った雨音に見せつけるように、担任は教卓の上を指し示す。
教卓の上には、数学の分厚い問題集の束が山積みになっていた。
また、いつものパターンだ。担任は雨音が頼まれると断れない質であることをよく知っている。
毎度の如く、その性質を利用された。もう嫌気が差しているのに、やっぱり断れない。
「……はい、いいですよ」
力なく頷けば、こういう時だけ担任は雨音に笑顔を向ける。
手渡された問題集を両腕いっぱいに抱えて、廊下を歩き始めた。
夕方の校舎は、昼間よりも静かだ。生徒達が下校して、クラブ員が運動場や音楽室などで練習に励んでいる。
特別な理由もないのに校舎に残っているのは、雨音くらいのものだった。
「っ……どうしよう」
職員室の前に立ち、どうしようかと一瞬迷う。
両手が塞がっている。ノックができない。足で、そっと扉を蹴るわけにもいかない。
一旦、何処かに問題集を置くか。いや、棚の上には優勝トロフィーやら大学案内のチラシで埋まっている。
流石に人の問題集を床に置くわけにもいかない。誰も見ていないだろうけれど、案外見ているかもしれないから。
(お、重い……っ)
問題集の角が腕に食い込む。思ったよりも重いし、掴む指先で血流が止まっている。
ほんの数秒のことなのに、妙に長く感じた。
職員室の中からは、先生達の低い声と、書類を捲る音が微かに聞こえてくる。
扉一枚向こうは日常なのに、ここだけが取り残されたみたいだ。



