雨は嫌いですか、私は好きです

 これは、雨が降る放課後でだけ許される恋。
 しとしとと降り続ける雨は、その恋の始まりを告げていた。
 昇降口へ向かい、湿ったローファーに履き替えると、小さなビニール傘を握り直す。
 曇ったガラス窓の向こう側に視線を向ければ、いつだって彼はいた。

「……雨、止まないなぁ」

 クラスで人気者のムードメーカーの彼は、どういうわけか、一人の地味な少女を待ち伏せする。
 けれど、この日は湿気で暴れるはずの癖っ毛を気にする必要がない。
 外に出れば曇っていた眼鏡もない。
 下駄箱の前でその光景を眺める地味な少女は、ここにはいなかった。
 雨雲の隙間から差し込む光が、彼を淡く照らしている。否、彼こそが光だった。

「雨は嫌いですか」

 隣で傘を開けて差し出せば、いつものように笑ってくれる人がいる。

「あれ、雰囲気変わったね」
「そうかな。眼鏡を辞めて、コンタクトにしてみたんだけど」
「いつもの降ろしてる姿も良かったけど、ポニテはやばい。ちょー可愛い」

 長年悩んできた癖っ毛からは逃げられないけれど、暴れるなら結べばいいじゃないかと遅くも気付いた雨音は、サプライズでポニーテールとやらをしてみた。
 巷では、男子に人気の髪型上位に入るらしい。
 
「クラスの人にしてもらったんだって? 藤代が言ってた」
「藤代君って気付いたら色々と知ってるよね。なんか、私達が付き合い始めたことクラス中に広まってたし。教室に入るなり髪弄られたんだから」

 慣れないポニーテールの毛先を弄りながら、雨音は不貞腐れたように唇を尖らせる。
 その姿を愛おしげに見つめる一晴は、ほんの少し頬を赤らめていた。

「一晴もこういうのが好き?」
「……どーいう意味だよ」
「ふふっ、ごめん。ちょっと揶揄いたくなっただけ」

 柄にもなく揶揄ってみれば、案外素直な反応が返ってきて思わず吹き出してしまう。
 小刻みに肩を揺らして笑っている横で、じとっと見つめる視線があった。
 徐ろに伸ばされた手は雨音のポニーテールに触れる。そしてすぐに、白い頬へと移動した。

「いっせ———」
「雨音がするなら、好きだよ」

 これからは、こういうことを当たり前のように言われるのだろうと、自分で思ったはずなのに。

「ちょっ! そんなド直球に」
「直球で言わないと、雨音はすぐ冗談だ何だで誤魔化すだろ。彼氏なんだから、雨音のことは分かってるつもりだけど」

 ずいっと顔を近づけられて、雨音は反射的に顔を逸らす。