雨は嫌いですか、私は好きです

 真っ直ぐな言葉が静かに落ちたまま、そこから動かない。
 雨の音だけは変わらず続いているのに、自分の周りだけ切り取られた用に感じる。

『彼女になってください』

 その一言が、何度も頭の中で繰り返された。
 理解しているはずなのに、何処か現実味がなくて。
 すぐには、言葉が出てこない。

(こ、これって……告白?)

 呑気にそんな事を考えてしまうくらい、雨音の脳は理解する容量を超えていた。
 隣にいる一晴の気配が、やけに近い。
 ベンチに置いていた手に何かが触れて視線を落とせば、一晴の手が指先に触れている。
 さっきまでよりも、ずっと緊張しているのが指先から伝わってきた。
 視線を向けなくても分かるくらいに、一晴は待っている。
 雨音の答えを逃げずに待ち続けている。
 胸の奥がじんわりと熱くなった。ここまで来て、まだ迷っている自分に気づく。
 嬉しいはずなのに。こんなにも求めていたはずなのに。それでも、怖いと思ってしまう。
 この一言で、全部が変わってしまうから。
 今までの関係も、距離も。
 けれど、それ以上にさっきの言葉が頭から離れない。

『隣、取られんのが嫌だった』

 一晴は逃げようとせず、あんな風に真正面から全てをぶつけてくれた。
 そして今も、ここまで連れてきてくれた。
 だったら、今度は自分が逃げる番ではない。

(……もっと、早く言ってくれたら良かったのになぁ)

 ゆっくりと息を吸い、少しだけ震える手を一晴の手の方へ近づけた。
 それから、顔を上げて隣にいる一晴を見る。彼も同じように、雨音を見ていた。
 少しだけ強張った顔で、それでも、逸らさずに。
 その目を見ていると、不思議と怖さが和らいでいった。

「……いいですよ」

 零れ落ちた言葉は、自分で思っていたよりもずっと素直な音だった。
 一瞬だけ、間が空く。
 それだけじゃ足りない気がして、ちゃんと届くようにもう一度口を開いた。

「……なります。成瀬君の、彼女に」

 真っ直ぐと目を見たまま言い切り、指先だけで触れていた手をぎゅっと握った。
 その瞬間、胸の奥がじんわりと満たされていく。
 恥ずかしくて、でも嬉しくて。まとも顔を見ていられなくて、少しだけ視線を落とす。
 けれど、逃げたくはなかった。
 ちゃんとここにいる。そう思えたから。