雨は嫌いですか、私は好きです

 もし、いなかったら。
 そんな考えが頭の中を過る。
 もしかすれば、探しても見つからないかもしれない。きっとその確率の方が高い。
 そうなれば、やっと諦めがつくだろう。それとも、余計に引きずるだけなのか。
 どちらに転んでも、楽にはならない気がした。けれど、それでも確かめずに帰る方が、きっと後悔する。
 それだけは、はっきり分かった。

(せめて、理由だけでも知りたい)

 小さく息を吸って、少しだけ力を込めて扉を開けた。軋むような音が、静かな廊下に響く。
 外に出た瞬間、ひんやりとした空気が頬に触れた。
 教室の中にいたときよりも温度が低くて、思わず肩が竦む。
 雨の音がさらに近くなった気がした。屋根や窓に打ちつける音が、廊下まで届いている。
 人気のない廊下は、やけに広く感じた。
 何処にいるかなんて分からないのに、探す当てもないのに、それでも足は止まらない。
 まるで、何かに引っ張られるように、胸の奥のざわつきに導かれるように、その先にいるかもしれない“誰か”を見つけられることを何処かで望みながら。
 廊下の奥へと足を進める。階段を下りるたびに、雨の音が少しずつ大きくなっていった。
 靴底が段を踏む音が、やけに大きく辺りに響く。
 途中で誰ともすれ違わなかったから、本当にほとんどの生徒は帰ってしまったのだと実感する。
 それでも、引き返そうとは思わなかった。
 昇降口へと近づくにつれて、外の光が僅かに差し込んでくる。
 灰色の曇った光。その向こうで、雨が絶え間なく降り続いているのが見えた。ガラス越しでも分かるほどの強い雨。
 扉の前まで来て、ほんの一瞬だけ足が止まる。
 ここを出れば、もう誤魔化せない。見つけても、見つけられなくても。どちらにしても、引き返せない気がした。
 それでも、ドアを押して外に出る。
 途端に、雨音が一気に押し寄せてきた。屋根の下にいるはずなのに、空気が湿って重い。
 冷たい風が吹き込んできて、頬を撫でる。

(こんなに強かったけ)

 徐ろに視線を上げると、白く煙った校庭が目に入る。水溜りに打ちつける雨粒が、より多くの水溜りを生んでいた。
 そこから視線を外し、曇ったガラス窓の先を見る。
 
「………っ、あ……」

 一瞬、息が止まった。
 視線がそこに釘付けになって離せない。そこには、薄っすらとした霧の中に立ち尽くす人影があった。
 昇降口の軒先から少し外れた所で濡れることも気にせずに、ただ立っている。
 そこに立っていたのは、一晴だった。