雨は嫌いですか、私は好きです

 放課後になっても、雨は弱まる気配がなかった。
 窓の外はずっと白く煙ったままで、校舎の屋根を叩く音が絶え間なく続いている。
 そんな景色をぼんやりと眺めている所に、金切り声が耳に痛い女子生徒の声が割って入ってきた。

「ごめーん、小森さん。今日の掃除、代わってくんない?」

 帰り支度をしていた手が止ま。顔を上げると、名前も知らない女子が申し訳なさそうに手を合わせていた。
 こういう時にだけ話し掛けてくる、都合のいい人間ばかりだ。

「ちょっと急いでてさ。ほんとごめん!」

 断る間もなく、ぺこりと頭を下げられる。
 周りはもう帰る空気で、引き止める理由も見つからない。

「いいですよ」

 気付けば、そう答えていた。自分でも聞き飽きた口癖が口を衝いて出る。

「ありがとう! よろしくねー」

 軽い調子の言葉を残して、その子はすぐに教室を出ていく。ぱたぱたと足音が遠ざかって、やがて聞こえなくなった。
 そこでようやく気が付く。
 いつの間にか、教室には雨音一人だけがいた。静寂が満ちる教室に、雨音だけがぽつんと佇んでいる。
 結局、またこれだ。いつも通り都合のいいように利用され、自分には何も残らない。
 断ろうと思えば断れたはずなのに、そうしなかったのは、帰る理由が上手く見つからなかったからかもしれない。
 開けっ放しの鞄のチャックを閉じ、教室の後ろにある掃除用具入れへと近づく。
 扉を開けば、中は綺麗に整理整頓されていた。近頃、教室の掃除をするのは雨音ばかりであったから、個人的に使いやすく整理したのである。
 どの箒がゴミを集めやすく、どの箒が壊れているのか。
 どの塵取りが床に置いた時に隙間が開かないのか。雨音はそういったことが瞬時に理解できるよう、位置を決めているのである。
 こんなことを知っているのは、クラスでも学校内でも雨音一人だけ。
 今ではスタメンとも言える長さも重さも手に馴染む箒を一本取り出し、ついでに塵取りも足元に置く。

(今日は教壇も掃除しておこうかな)

 何処から掃き始めれば全体を無駄無く掃除できるのか、まずはそれを考えるところから始まる。
 床を掃く度に、乾いた音が教室に響いた。
 机と椅子の隙間を縫うように動きながら、あの時のことが何度も頭を過る。