雨は嫌いですか、私は好きです

 わざわざ家を出る時間を早めて向かったのは、一晴につれられて初めて訪れたあの公園。
 自然と入口の手前で足が止まり、柵越しに中を覗いた。
 雨に濡れた遊具。
 滑り台の表面を、水が筋になって流れている。
 人のいない砂場は、色が濃く沈んでいた。
 辺りには、水溜まりが幾つも広がっている。踏み込めば、簡単に靴が濡れそうだった。
 そして、視線はその奥へと誘われる。
 休憩所の屋根の下。ベンチに誰かが座っている。
 ぼんやりとした輪郭。けれど、視線を向けた瞬間にそれが誰か分かってしまった。

「……」

 一瞬呼吸が止まって、胸の奥が小さく跳ねる。
 見間違えるはずがなかった。ベンチに座っていたのは、紛れもない一晴だったのだ。
 一晴は少しだけ前鏡になって、肘を膝に乗せるようにして座っている。
 濡れてはいないはずなのに、雨の中にいるみたいな雰囲気を纏っていた。
 その姿を雨音はただ見つめる。
 こんなところで。
 こんなタイミングで。偶然、と言うには出来すぎている気がした。
 それでも、足はもう止まらなかった。
 一歩、踏み出す。砂利を踏む音が、小さく鳴る。
 その音に気づいたのか、一晴が顔を上げて視線が合った。

「あっ」

 小さく声が漏れる。どちらの声だったのかは、雨によって掻き消されてしまった。
 一晴は雨音の存在に築くなり、驚いたような戸惑ったような表情を浮かべる。
 そのまま、一瞬だけ固また。
 その間に雨音はもう一歩近づく。距離が少しだけ縮まった。
 けれど、次の瞬間には一晴の表情が鋭いものに変わる。
 焦り。
 迷い。
 何かを決めるような、一瞬の強張り。
 すぐに立ち上がり、鞄を掴んで肩に掛けた。

「……っ!」

 何かを言おうとする前に、一晴は雨音から視線を外した。
 屋根の下から飛び出したかと思うと、傘もささずに反対側の出口へ向かって走り出す。
 その背中が、あっという間に遠ざかっていった。

「……待って」

 声が少し遅れて出る。けれど、届く距離ではなかった。
 追いかける前に足が止まる。
 ほんの一瞬だけ、違和感が胸に引っ掛かった。

(何、これ)

 ただ、避けられてる。そう思っていたはずなのに、今のは少し違った。
 逃げるような動き。けれど、一瞬だけ見せた目が合ったときの表情。
 あれは、嫌がっている顔ではなかった。
 もっと別の、それこそ戸惑ってるような表情だったように思える。

「もしかして……ただ避けてるわけじゃない?」

 言葉にしてみると、自分の中で何かが変わった。ずっと同じ方向だった考えが、少しだけずれる。
 一晴に避けられるのには、何か理由があるんじゃないかという可能性。
 その瞬間、止まっていた足が動く。
 地面を蹴って、水飛沫が跳ねても、もう迷いはなかった。
 傘を握る手に力が入る。
 視線はただ一つ、彼が目指したであろう学校の方向へと向いていた。