教室の中は、いつも通りのざわめきに満ちていた。
笑い声と、机を引く音と、誰かの名前を呼ぶ声。そのどれもが特別なものじゃないはずなのに、今日は少しだけ違和感を覚えた。
自分だけが、少し外側にいるようで。
(次の授業は、古典か……)
机の中を漁って教科書を取り出し、パラパラとノートのページを捲る。
ノートを開いたまま、視線だけがゆっくりと動いた。
探しているつもりはなかった。けれど、気付けば目が止まってしまう。
「えー、うっそだぁ。絶対いるでしょ」
「だーかーらー! 彼女はいないって!」
「じゃあ、好きな人は? 一晴なら一人や二人いるでしょ」
「俺は男とゲーセンとか行ってる方が楽しいんだって」
教室の中央にできた人だかりの真ん中には、当たり前のように一晴の姿がある。
数人の女子に囲まれて、一晴は机にもたれ掛かるように立っていた。
誰かの声に応じて一晴が少しだけ笑い、それにつられて皆が笑う。その笑い方が、やけに自然だった。
無理をしているようにも見えないし、距離を取っているようにも見えない。
ちゃんと会話の中にいて、ちゃんとそこにいる。その中心に人気者の一晴がいる。
言葉に合わせて、小さく頷いたり、軽く返したりしていた。その一つ一つが、当たり前みたいに滑らかだった。
「……なん、でかなぁ」
少しだけ息が詰まって視線を逸らそうとしたけれど、どうしてかその光景から逸らせなかった。
もう一度現実を確認するために目を向ける。
さっきと同じ光景で何も変わらない。彼らはくだらないことに笑い、普通に話してる。
いつも通り、休み時間になれば嫌でも目に入るありふれた時間。
頭の中で、言葉が浮かぶ。
そのままの意味で、余計な解釈なんて必要ないくらい、はっきりとした事実。
避けている様子なんて、何処にもない。
「……あ」
小さく声が漏れそうになって、慌てて口を閉じる。誰にも聞かれていないのに、何故か隠すように。
もう一度だけ、視線を向ける。
今度は、ほんの一瞬。
一晴が誰かの言葉に無邪気に笑う。ほんの少しだけ口元が緩む、その表情。
それを見た瞬間。
胸の奥がきゅっと縮まる。上手く呼吸ができないような感覚。
理由なんて、考えなくても分かってしまう。
(ああいうふうに、笑うんだ)
自分の知らない一面を見た、というより。
知っているはずのものを、向けられていないと気付いた感覚だった。
「……っ………」
ゆっくりと視線を落とすと、ノートの上の文字が少しだけ滲んで見える。
さっきまで考えていたことが、何処かに消えてしまっていた。
代わりに残っているのは、一つのはっきりした違和感だけ。
笑い声と、机を引く音と、誰かの名前を呼ぶ声。そのどれもが特別なものじゃないはずなのに、今日は少しだけ違和感を覚えた。
自分だけが、少し外側にいるようで。
(次の授業は、古典か……)
机の中を漁って教科書を取り出し、パラパラとノートのページを捲る。
ノートを開いたまま、視線だけがゆっくりと動いた。
探しているつもりはなかった。けれど、気付けば目が止まってしまう。
「えー、うっそだぁ。絶対いるでしょ」
「だーかーらー! 彼女はいないって!」
「じゃあ、好きな人は? 一晴なら一人や二人いるでしょ」
「俺は男とゲーセンとか行ってる方が楽しいんだって」
教室の中央にできた人だかりの真ん中には、当たり前のように一晴の姿がある。
数人の女子に囲まれて、一晴は机にもたれ掛かるように立っていた。
誰かの声に応じて一晴が少しだけ笑い、それにつられて皆が笑う。その笑い方が、やけに自然だった。
無理をしているようにも見えないし、距離を取っているようにも見えない。
ちゃんと会話の中にいて、ちゃんとそこにいる。その中心に人気者の一晴がいる。
言葉に合わせて、小さく頷いたり、軽く返したりしていた。その一つ一つが、当たり前みたいに滑らかだった。
「……なん、でかなぁ」
少しだけ息が詰まって視線を逸らそうとしたけれど、どうしてかその光景から逸らせなかった。
もう一度現実を確認するために目を向ける。
さっきと同じ光景で何も変わらない。彼らはくだらないことに笑い、普通に話してる。
いつも通り、休み時間になれば嫌でも目に入るありふれた時間。
頭の中で、言葉が浮かぶ。
そのままの意味で、余計な解釈なんて必要ないくらい、はっきりとした事実。
避けている様子なんて、何処にもない。
「……あ」
小さく声が漏れそうになって、慌てて口を閉じる。誰にも聞かれていないのに、何故か隠すように。
もう一度だけ、視線を向ける。
今度は、ほんの一瞬。
一晴が誰かの言葉に無邪気に笑う。ほんの少しだけ口元が緩む、その表情。
それを見た瞬間。
胸の奥がきゅっと縮まる。上手く呼吸ができないような感覚。
理由なんて、考えなくても分かってしまう。
(ああいうふうに、笑うんだ)
自分の知らない一面を見た、というより。
知っているはずのものを、向けられていないと気付いた感覚だった。
「……っ………」
ゆっくりと視線を落とすと、ノートの上の文字が少しだけ滲んで見える。
さっきまで考えていたことが、何処かに消えてしまっていた。
代わりに残っているのは、一つのはっきりした違和感だけ。



