想いと共に花と散る

 それまで当たり前にあった日常が変わるのは、至極簡単なことだった。

「……うん。おいしい、はず………」

 コトコトと音を立てながら揺れる釜の蓋、湯気が立ち上る鍋。
 日が昇ったばかりの朝方、雪は一人で台所に立っていた。背後には隊士の人数分の朝餉が並んでいる。

「雪! おっはよう!」
「わっ、とと。びっくりしたぁ、平助くんか。おはよう」
「あれ? ほとんど朝餉の準備できてんじゃん。わりぃ! 俺も当番なのに」

 御所での警護から数日、壬生浪士組の生活と空気は少しばかり変わった。
 以前はあまり本格化していなかった市中の見回りの頻度が増え、雪は土方の小姓としての仕事が増えた。
 主に炊事、掃除、薪割りなど。雑用ばかりではあるが、日中は何かしらの役目が与えられ屯所内を走り回っている。
 そんな今日の朝餉当番は、雪と藤堂の二人。
 本来はこんなに早起きをせずとも準備は間に合うのだが、今日は一段と気合を入れる理由があった。その理由があるため、こうして早起きをして準備をしていたのである。

「ううん、気にしないで。私が勝手に早起きをしてやってたことだから」
「そうか? んじゃあ、せめて皆のとこには俺が運ぶよ。これ、もう持って行っていいか?」
「うん、お願い」

 理由の一つは、藤堂と食事当番が重なったから。
 年上ではあるがその気さくな性格から、藤堂とは気兼ね無く話せるのである。
 雪にとって、彼との時間は密かな楽しみであった。
 そして早起きをいてまで朝餉の準備をいていた理由はもう一つある。

「お、今日は沢庵の日かー。あ、早起きしたってこれのためだな」
「そう。沢庵の日は一段と気合を入れなきゃいけないからさ」

 壬生浪士組には、組一の沢庵好きの鬼がいるのである。

「この前の雪が漬けた沢庵を食った時の土方さんと来ちゃあ、すげぇ顔してたよなー」
「漬物なんて初めて作ったから加減が分からなくて。まさか、総司君があんなにも料理下手とは知らず……」

 この時代の朝餉は、主に玄米ご飯に味噌汁、漬物といった質素な献立である。
 日によって味噌汁の具と漬物の種類が変わるのだが、初めて雪が炊事当番になった日、前日の当番を担っていた山南に「土方は沢庵が好き」だと教えられたのである。
 雪はその話を聞くとすぐに沢庵の作り方をもう一人の仲良し隊士の沖田に聞いた。
 しかし、その判断が間違えていたのだと後に地獄を見る羽目になったのだ。