想いと共に花と散る

 これは自分自身を見失い、自分の強さを勘違いしていた結果の表れであった。

「てめぇだって、二度も首に傷なんざ抱えたくねぇだろ。これに懲りたら、勝手な真似はすんじゃねぇ」
「…………はい」
「けど」

 微かに布と布が擦れ合う音が鳴り、土方の顔が眼前に迫った。
 突然縮んだ距離は、雪が退こうと広がらない。土方は逃がすまいと身を寄せ、絵に書いたような端正な顔を近づけた。

「生きることを諦めなかったのは、立派だったぜ」

 また得体の知れない強い衝撃が襲った。心臓を鷲掴みにされたような、言葉にできないむず痒い感覚。
 意味が分からず聞き返そうと思えば、ずしっと何かが伸し掛かってくる。
 見れば、土方の身体が力なく雪の小さな体にもたれ掛かっていた。耳を澄ませば微かな寝息が聞こえる。

「いや、この状況で寝る!?」

 宵闇に雪の叫び声が響き渡る。意味深なことを聞かされた挙げ句、それ以上のことを聞かされないなど後味が悪いだけ。
 それでもこのままいるわけにもいかず何とか土方の身体を床に寝転がすが、雪一人ではどうにも動かせない。
 一人で縁側に座り込みどうしたものかと考え込んでいる時、離れの中が少しばかり騒がしくなった。

「んん……あれぇ、雪じゃん……。そんな所で何してるのー」
「こんな時間まで起きているとは、何事だ」
「あっ、総司君に斎藤さん! いいところに来てくれた」

 酒焼けて掠れた声を出す寝起きの沖田と、何故か不機嫌の斎藤は雪の叫びを聞きつけてきたらしい。
 慌てて立ち上がり駆け寄ってきた雪の勢いに二人の眠気眼の瞳がカッと開かれた。

「土方さんを運ぶの手伝ってもらえないかな」
「土方さん? なんで土方さんを、って、なんでこんな所で寝てるのこの人……」
「まあ、ちょっと、いろいろあって……」
「いろいろとはなんだ……いろいろとは……」

 流石に寄り掛かってきて寝たなんて言えるはずもない。
 まともに誤魔化せていないことは明白だが、二人は追求することもしない。
 離から出てきた二人は、雪の背後を覗き込んで唖然とした。

「ふーん。はっ、酒弱いくせに飲むからだよ」

 縁側のど真ん中で眠る土方の近くまで歩み寄った沖田は、強く土方の背中を蹴った。
 一瞬表情を歪ませた土方だが、かなり深い眠りなのか起きることはない。
 しばし沖田と斎藤は顔を見合わせ、各々土方の片腕を掴むとズルズルと引きずって離れへと移動させた。

「大丈夫なのか、これは……」
「まあ、大丈夫じゃない? 悪いのは土方さんなんだし」
「いや……俺まで叱られたくはないんだが」

 畳の上で寝息を立てる土方を見て、沖田と斎藤は絶句する。
 沖田はともかく、普段は周りと馴れ合うことを好まない斎藤までもが協力するとは思わなかった。
 縁側から離れの中を覗き組む雪は、密かに斎藤の思いがけない一面に驚いていた。
 そんなことを知ってか知らずか、二人は雪の方を振り返ると何とも言えない微妙な顔つきをする。

「さあ、今日は奥座敷が開いているだろうからそこで寝てくるといいよ。馬鹿は片付いたしね」
「私もここで皆と寝るよ。こっちの方が温かそうだし」
「そっか。じゃあ、おやすみ」
「うん。おやすみ」

 部屋の端に座り、壁にもたれ掛かるとすぐに眠気が襲ってきた。皆のいびきで騒がしいが、これならすぐに眠れそうである。
 こうして皆と同じ空間で寝食を共にすると、それだけで仲間であると強く実感できる。
 せっかく土方と二人きりになれたのにお礼を言えなかった。助けてくれたお礼を言うのはまた先になりそうであった。