想いと共に花と散る

 刀を振るえて、自分のことを自分で守れる土方には雪の不安など知る由もない。
 弱き者の心は弱き者にしか分からない。逆も然りで、強き者の心は強き者にしか分からないのである。

「……お前が初めてここに来た日、俺は言ったな。“どうしてそんなに死に急ぐ”と。あん時は、てめぇの全部を捨てて諦めた面が気に入らねぇから言っただけだったが、今は違う」

 鋭く頬められた瞳には、漆黒の空に浮かぶ満月が映る。
 夜風に靡いた髪が一瞬土方の横顔を隠した。再び彼の顔が見えた時、雪と土方の視線が絡まり合う。
 いつにも増して穏やかな表情の土方は、月明かりを半身に受けて───神、刀を握り戦うから軍神のように見えた。

「今のてめぇは、自分の強さってのを見失っている」

 重い鈍器で後頭部をぶん殴られたかのような衝撃を感じた。
 ずっと自分が強くなるためにどうすればいいのか、答えを探していた。それなのに、今の自分は自分の強さを見失っているだと?

『雪君、自分のことをどう思おうがどう言おうが個人の勝手ですが、自分自身を見失ってはいけません。それに……君はもう十分に“生きよう”と思えているではありませんか』

 違う。自分の強さだけではない。
 雪は、雪華は、一人の人間として、一個人として、自分自身すら見失っていた。
 自分自身すらまともに見えていないのに、自分という土台の上に立つ強さなど見つけられるはずがない。

『自分の身は自分で守る、そう思えるのは君の強さです。恐怖も不安もあるのに君はここにいる、それだけで十分ですよ』

 あれだけ山南が親身になって話を聞いてくれたのに。
 分からないでいたことを教えてくれたのに、自分は何も理解していなかった。
 表面上の言葉しか聞いていないで理解した気になっていた。だから、土方には気付かれてしまったのだ。

「強さを追い求めるのは武士として当然のことだ。強くなるために、何かを守るために強くなる。俺は何もその意思を否定したいわけじゃねぇ。ただな、お前は焦り過ぎなんだ」
「焦り、過ぎ……」
「少し落ち着いて物事を見ろ。突っ走って行く所まで行って、行き止まりにぶち当たった時は深呼吸しろ」

 そうか。そういうことか。
 御所の警護中にも関わらず不安になって勝手な行動を取ったのは、自分自身を見失っていたからだ。
 隠れていたって役に立てることなんていくらでもあった。周囲に目を配って、土方達の目の届かないところまで観察することだってできた。
 にも関わらず、勝手に孤独を感じて焦った結果、皆に迷惑をかけた。