想いと共に花と散る

 酒を飲まない人間には、宴の後片付けをするという仕事がある。
 壬生浪士組の中で酒を飲まない人間はまさかの雪だけであり、全員が今夜の宴で酒を飲んだ。
 流石に芹沢ほど豪快な飲み方をする者はいなかったが、それなりに出来上がった面々はあちらこちらで寝ている。

「よい、しょと……。ふう、粗方片付いたかな」

 寝転がる隊士を踏まないように気をつけながら食器を片付けると、雪は酒の匂いといびきに満ちる離れを出た。
 そのまま向かうは、一度原田と二人で話をした縁側である。
 誰もいない静かな縁側に腰を下ろし、ぼんやりと空を見上げれば立派な満月が浮かんでいた。
 思わず見惚れてしまうほど、その満月は絵に書いたような丸で美しい。

「何、一人で黄昏れてやがる」
「うわあ!」

 ふわりと花のような甘い匂いが鼻腔を擽る。
 バクバクと激しく脈打つ心臓を抑えながら声が聞こえた方向に顔を向ければ、顔を赤らめた土方が立っていた。
 彼は隣まで来ると、ドカッと音を立てて座り込む。
 甘い香りに混ざって微かに酒の匂いを感じた。宴会中、事あるごとに土方を見ていたがそこまで酒を飲んでいる様子は見られなかった。
 恐らく、彼は下戸というやつなのだろう。
 思いがけない一面を見られた気がして、少し嬉しく感じた雪である。

「……そういやぁ、まだ説教してなかったな」
「うっ……。完全に忘れてた……」
「そんなことだろうと思ってた。あんだけはしゃいでたんだしな」

 宴での気分の高まりが一瞬にして静まり、がっくりと項垂れる。
 もう何度も土方には叱られているが、こうして事前に説教をすると宣言されてしまっては恐ろしい他ない。
 逸らしていた顔を上げて土方を見ると、どういうわけか、彼は大して怒る様子もなく月を見上げていた。

「まず、俺は隠れておくように言ったが、どうして勝手に移動した」
「……一人だと不安だったから。何か、役に立てるわけじゃないけど……私だって壬生浪氏組の一員です。私だけ隠れているなんて……耐えられなかった」

 土方は自分の身を案じて隠れる様に促してくれた、その気遣いは理解している。
 しかしその気遣いは、裏返してみれば「未熟だから戦えない」と始めから戦場から遠ざけられていることと同じである。
 雪にはそれが耐えられなかった。自分のことは自分で守ると誓ったのに、結局守られてしまっているのだから。
 何より、皆と離れた場所にいると心の距離を感じるようだったのだ。