想いと共に花と散る

 一体全体何が起きたのか分からず、雪は地面に座り込んだままぼんやりと事の成り行きを見ていた。
 突然誘拐されそうになり、殺されかけているところを再び土方に助けられ、気が付けば浪士達は会津藩士に連行される。
 その段取りの良さに雪はただ呆気に取られるだけであった。

「おい」
「うえ……わあ!」

 土方の声が聞こえたかと思えば、頭上から大きく重い布が落ちてきた。
 ふわりと花のような匂いを感じる。布を手にとって見れば、それは土方が着ていた浅葱色の羽織であった。
 羽織を手にしたまま、雪はすぐ傍に立っている土方を見上げる。

「後で説教だ」

 たった一言、そう短く言った土方は長い黒髪を靡かせてその場を去っていく。
 この一件で静かだった御所内は混沌に巻き込まれ、それまで姿を見せなかった会津藩士があちらこちらに見られるようになっていた。
 ぽかんと口を開けたまま固まる雪の傍に、一人の浅葱色の羽織を羽織った青年が膝を折る。
 人の気配を感じてそこに目を向けると、貼り付けた笑みを浮かべる沖田がいた。

「何を言われるのか分かっている顔だね」
「う……すみませ────」

 パチン。

「あう!」

 雪の額にデコピンを決めた沖田は、貼り付けた笑みを消して雪を見据える。
 普段から微笑みを浮かべていることの方が多い沖田の真顔は、いつまで経っても慣れない。
 痛む額を擦りながら沖田と目合わせた雪は、渋々腹を括った。

「土方さんに隠れているように言われたはずだよね?」
「はい……」
「にも関わらず、約束を破った結果浪士に誘拐されそうになるとか、命知らずにもほどがあるよ」
「本当に……すみませんでした……」
「はぁ……まあ、でも、無事で良かったよ」

 呆れを見せつつも、乱暴に雪の頭を撫でた沖田は、立ち上がって隊士達の元へと向かっていく。
 残された雪は土方の羽織へと目を落とす。
 仕立てたばかりで真新しい羽織には、微かな砂汚れが着いていた。
 雪の身の危険を案じて助けに来なければ、付くことのなかった汚れ。

「後で、ちゃんと謝ろう。それで、お礼も言わないと」

 大きすぎる羽織を肩に掛けてみると、自分も彼らと同じく武士になれるような気がした。
 そして、もう守られてばかりいてはいけないとも思う。
 
(私だって壬生浪氏組の一人。自分の身くらい、自分で守れるようにならなきゃ)

 浅葱色の羽織に身を包み、顔を上げた雪は仲間の元へと駆けて行った。