想いと共に花と散る

 祖父母の家は町の中でも一際大きく、立派な見た目も相まって一見屋敷かと見紛うほどのものであった。
 そんな大きな家に祖父母二人だけで住んでいるというのだからさぞ寂しいことだろう。
 日頃の寂しさも相まって、こうして帰省すると祖母は常に嬉しそうに笑うのである。

「雪華ちゃんはバニラとチョコ、どっちがいいかねぇ」
「えーっと、チョコ!」

 縁側に座って庭を眺めていると、二つの棒付きアイスを持った祖母が隣に座った。
 チョコ味のアイスを受け取り封を開けて口に入れる。隣で祖母はバニラ味のアイスを一口囓った。

「ふふふ」
「……何笑ってるの? おばあちゃん」
「いやねぇ、雪華ちゃんが楽しそうにしてくれるから嬉しくてねぇ」

 何故か祖母を前にすると年甲斐もなくはしゃいでしまう自分がいた。子供っぽく返事をしても、声を上げて笑っても祖母は咎めようとしない。 
 それどころが嬉しそうに一緒に笑ってくれる。
 普段の生活は息苦しくて到底笑えたものではないけれど。
 こうして祖母と同じ時間を何をするでもなくゆったりと過ごしている間は、ありのままの自分でいられる気がした。

「少し見ない間に、また大人っぽくなったんじゃないかい? 何歳になったの?」
「十六だよ」
「おやまあ、もうそんなになるのかい。あっという間に大きくなっていくねぇ」

 おばあちゃんはまた小さくなったね。

 なんて口が裂けても言えなかった。自分が成長して大人になるように、祖母もまた余生を生きていく。
 そしてその後に行き着くのは、穏やかな死というもの。
 きっと祖母は死ぬ時穏やかな顔をして静かに目を閉じるのだろう。簡単にその時の情景を想像できてしまうのがなんとも寂しい。
 けれど、それは避けようのない現実なのである。
 人はいつか死ぬ。それは自分も例外ではない。

「どうだい、学校は楽しい?」

 いつか死ぬのならば、その時くらいは安心して静かに眠りたい。

「楽しいよ」

 祖母に心配を掛けるなど以ての外だった。
 目の周りに皺をたくさん作って、薄い唇を固く結んで、柔らかい頬を赤らめて楽しげに笑う。
 そんな祖母の笑顔をいつまでも見ていたいから。いつまでも見せてほしいから。
 
「毎日、すっごく楽しい!」

 だから、わざとらしいくらいにやりすぎなくらいの嘘を吐く。
 いつまでも祖母が笑っていてくれるなら、嘘でもなんでも吐いたって苦しくはないから。