想いと共に花と散る

 夜の御所は、想像していたよりもずっと暗い。
 灯籠の明かりは最低限に抑えられ、庭も回廊も影が支配している。
 誰かが足を踏み出すたび、砂利が微かに鳴る。その音すら、この場では大きすぎるように感じられた。
 隊士達は決められた位置に立ち、誰一人として口を開かない。ただ、視線だけが忙しなく動いている。
 雪は変わらず土方に言われた回廊の陰に隠れ、遠くにいる土方の背中を見つめていた。

(……何も、起きませんように)

 誰にも聞かれないことをいいことにそう祈る。けれど、その願いは胸の奥で否定された。
 何も起きないことが“成功”なのだと、雪は分かっていたのだ。
 それでも、闇の奥から誰かが現れるのではないか。柱の陰に、人の気配が潜んでいるのではないか。そんな想像が、勝手に頭を過った。
 今一度、よく考える。この警護が何のためのものであるのか。何故、この警護が必要なのかと。
 その訳を考えれば、この緊張感が必然的なことであると理解できる。
 不意に、遠くで衣擦れの音がした。雪の身体が強張るより早く、土方の手が動く。
 ほんの一瞬、刀の柄に触れるが、抜かれることはない。

「……気にするな。交代の者だ」

 低く、抑えた声が聞こえる。
 それだけで、張り詰めていた空気が僅かに緩んだ。

(この人は……ずっと、こういう場所に立ってきたんだ)

 雪は初めて理解した。
 刀を振るう強さだけではない。何も起こさせないために立ち続ける覚悟。それが彼らの持つ、何にも汚されない強さであると。
 壬生浪士組はまだ名もないが、今この夜、確かに都の中枢を守っていた。