想いと共に花と散る

 呆気にとられたまま何も言えずにいると、土方は髪から手を離した。
 彼は着物の袖口に手を入れ、中を弄り何かを取り出す。彼が右手に握っていたのは一本の桜色の紐であった。
 その紐を雪へと差し出し、ふいと目を逸らしてしまう。

「……これって」
「やる」

 早くしろと言わんばかりに押し付けられ、雪は戸惑いつつもその紐に手を伸ばした。
 指先で摘み上げれば、一瞬目を向けた土方は満足げに微笑む。
 それ以上は何も語らず、そそくさと雪に背を向けた。夕焼けが広がる空の下を土方は歩き始める。

(……可愛い色)

 土方が可愛らしい色の結い紐を持っていたことがおかしく思えたのもあるが、何より、彼から何かを贈られたことが嬉しいと思った。
 受け取った紙紐を両手に包んで胸に当てると、思わず笑みが溢れた。

「えへへっ、やったぁ」

 彼が見ていないことをいいことに、雪は溢れ出んばかりの笑みを浮かべた。
 きっと、贈った本人は結い紐一つでここまで喜ばれるなど思っていなかっただろう。
 たった一本の結い紐、されど一本の結い紐。けれど雪にとっては宝物の一つになった。

「おい、何してやがる。さっさとしねぇと日が落ちるぞ」
「はーい! 今行きます!」

 振り返った土方は、満面の笑みを浮かべている雪を見て怪訝な表情を浮かべた。
 それすらも雪にとっては心地が良い。暖かくて、優しくて、時に厳しい。それが、好きだった。

「んだよ、いきなりご機嫌になりやがって」
「秘密でーす」
「ああ? どうせくだらねぇことでも考えてんだろ。あんまりあいつらの影響受けんなよ、特に、総司とかな」

 あいつはすぐ俺を揶揄いやがる、そう悪態をつく土方の隣を歩きながら、雪はもう一度手の中の結い紐に目を落とした。
 壬生浪士組へ来たばかりの日、沖田と藤堂と三人で行った呉服屋で桜色の着物を買った。
 いつの日か、雪華として彼らと同じ時間を過ごせるようになった時、その着物を着た姿を見せると約束した。
 もしもその日が来たら、この結い紐を使おうと雪は密かに誓ったのである。