想いと共に花と散る

 目を逸らしてぼそぼそと呟くが、静かな庭では土方の耳にその声は届いてしまう。
 途端に得も言われぬ羞恥心が襲ってきて、すっかり土方の顔を見られなくなっていた。

「……ふっ」

 だから、今の土方がどれだけ穏やかな表情を浮かべていたのかなど、雪は知る由もない。
 もしもこの時、初めて出会った時に鬼のようだと思ったあの男が髪に触れてこなければ、いつまでも顔を見られなかったかもしれない。
 優しい手つきで触れられ、雪は反射的に顔を上げる。
 
「だいぶ図々しくなってきたな」
「なっ! 図々しいってなんですかっ!」
「そういうところだ。総司達と一緒にいたせいで移ったんだな」

 何がおかしいのか雪には皆目見当がつかない。けれど、それはそれは楽しそうに笑うものだから、雪はさほど不快ではなかった。
 それどころか、つられて笑ってしまった。

「ふふっ、本当、すっごく怖かったんですからね」
「知ってたっての。後ろの方で縮こまって震えてたんだからなぁ」

 一度も振り返らないと思っていたのに、いつの間にか見られていたらしい。
 自分の見られなくないものを見られていたことを知った雪は、不貞腐れて唇と尖らせる。
 それすら土方には愉快なようで、普段の仏頂面からは想像もつかない笑みを浮かべた。

「ただまあ、それは気に入らねぇがな」
「……気に入らないって?」

 突然何を言い出したかと思えば、笑みを消した土方が再び後ろに流した黒髪に触れてくる。 
 先程は楽しそうに髪に触れてきたのに、今は何処か不服そうだ。
 雪が不思議に思って小首を傾げると、すっと動いた瞳は真っ直ぐ雪を捉える。いきなり目が合ったことで心臓がドクンと脈打った。

「その髪、これからは結い上げるようしとけ」
「え、いいですけど……もしかして隊の士気が落ちるから……?」
「いや、別に髪を下ろしてるだけで士気なんざ落ちてたまるか。ただ…な、その……」

 突然笑って、突然真顔になったかと思えば、突然頬を赤らめ始めた。
 基本的に、眉間に皺を寄せているか、真顔か鬼の形相で怒鳴るかの彼が頬を赤らめる様を見た者がこれまでにいただろうか。
 
「周りの目が、気になんだよ」

 ふわりと吹いたそよ風が二人の長い髪を揺らす。
 雪は、ぽかんと口を開けて呆気に取られた。彼が今何を言ったのか、全く持って理解できなかったのである。