想いと共に花と散る

 顔合わせは一段落終え、一同は御所から広大な庭に出た。御所へ来た時は青かった空も、今では夕焼けに染まっている。
 容保を前にした時こそ神妙なお面持ちをしていた面々だが、一歩外に出るなり表情にその疲労を浮かべた。
 この場、この集団の中で完全に日常へ戻れた者はいない。
 庭に立ち並ぶ隊士達の顔には、それぞれ異なる色の覚悟が浮かんでいた。高揚、不安、苛立ち、そして静かな決意。

「今日はここまでだ」

 土方の声が静かな庭に響く。雪は土方の隣りに立って彼の顔を見上げた。
 彼もまた、疲労を滲ませた顔をしているが、その奥には確かな覚悟を抱いている。

「各自、持ち場に戻るように。今日はご苦労だった」

 しばしの沈黙の後、土方の後に続いて一歩踏み出した近藤が隊士達の顔を見渡しながら言う。
 近藤のその一言で、全員が理解した。今日の動きは“始まり”に過ぎないのだと。
 隊士達が散っていく中、雪はその場に立ち尽くしていた。
 御所の中では必死に堪えていた震えが、今になって指先に滲み出てくる。こうして立っているだけでもやっとなほど、身体は限界を迎えていた。
 そんな小刻みに震える雪の肩に、ふいに影が落ちる。

「……怖かったか」

 頭上から先程とは違う疲れが溢れた低い声が降ってきた。足元に落としていた視線を上げると、土方が少し柔らかくなった眼差しで見つめてくる。
 否定しようとして、言葉が喉で詰まった。上手く今の感情が言葉にできなくて、代わりに雪は小さく頷く。

「それでいい」

 土方はそれ以上何も言わず、ただ雪を見下ろした。
 とうに他の隊士達が去ったこの場には、二人以外の誰もいない。静かではあるが、御所の中での緊張感はなく、あるのは心地良い高揚感だった。
 温かな夕焼けを背に、月下で出会った鬼はふっと小さく笑みを落とす。

「しかしまあ、見直した」
「見直した?」
「逃げ出すかとも思ったが、ここまで付いて来るんだからな」
「それは、宣言しちゃいましたし……。それに……」

 口先だけでは何とでも言える、土方はそう言いたいのだろう。実際、雪は何度も自分はここにいるべきではないと思った。
 それでも、変わらずこの場所で土方の隣りに立っているのは、それだけの覚悟と決意があったからだ。

「……私は、土方さんの小姓ですから……」

 それだけが理由ではないし、それだけが理由にはならないと分かっている。
 けれど、雪を突き動かすのは小姓としての責任感であった。