想いと共に花と散る

 やがて御所の朱塗りの門が見えてくると、隊全体に緊張が走った。
 門の周囲にはすでに多くの警護の兵が配備され、要所には幕府側の諸隊も陣取っている。

「止まれ!」

 近藤の号令が辺りに響き渡り、素早く隊列が停止する。
 彼らに習って雪もその場に立ち止まるが、不安からか緊張からか、どうにも体の震えが止まらない。
 御所の大きな屋根は日差しを受けて鈍い光を放ち、外とは違う張り詰めた静けさが辺りを包んでいた。

「ここから先は、己に課せられた役目を果たすだけだ。状況がどう変わろうと動揺するんじゃねぇぞ」

 先頭に立っていた土方が振り返り、隊全体に向かって聞こえるよう声を張り上げて言う。
 ビリリと空気を震わせるその大声は、雪に恐怖心を植え付けるのに十分であった。
 
(これから、一体何が起こるんだろう……)

 屯所で山南の前で付いて行くと宣言した時の威勢の良さなどとうに消え、ぽつんと隊の最後尾で突っ立っていることしかできなかった。
 そんな雪の元へ一人の隊員が列から抜け出して近づいてくる。頭一つ飛び抜ける背丈のその男は、問わずとも知れた原田その人だ。
 原田は雪の真隣までやってくると、耳元でぼそりと呟いた。

「ここからが本番だ。気を抜くなよ」

 彼の言葉に雪は小さく頷くしかできなかった。掌は汗で湿り、足の先は地に着いているのかすら分からない。
 気を抜くなと言われても、この張り詰めた空気感の中で気を抜くなどできるはずもない。
 今の原田からは、屯所での穏やかな雰囲気は感じられず、隣りに立っているだけで威圧感を感じた。
 言葉にできない張り詰めた空気が漂う中、門の奥から耳を劈く声が飛ぶ。

「会津預かりの浪士組! 入れ!」

 門の向こう側にいた役人らしき男が言う会津預かりの浪士組とは、当然雪達のことである。
 隣りに立っていた原田が一発背中を叩いて来たのを皮切りに、ぞろぞろと隊は御所の中へと動き出した。
 一足遅く歩き出した雪は、門の前で険しい表情を浮かべる鬼の如き男の元へと駆け出す。

「土方、さん……」
「来い。途中で離れたりするんじゃねぇぞ」
「は、はい……!」

 雪はその言葉に背を押されるようにして、御所の中へ足を踏み入れた。
 自分がいま何を見届けようとしているのか、その答えが見えていないまま——。
 けれど、確かに“歴史の大きなうねり”の音が、何処か遠くで続いているのを雪は感じていた。