想いと共に花と散る

 無理矢理にでも時間を潰す方法を考えないと暇死にしそうなほどである。

「あ、でもおばあちゃん家に行くんだっけ」

 はっと我に返り、机の木目に視線を落とす。
 確か、数日前に母が週末に祖父母の家に帰省すると言っていた気がする。今日は金曜日、記憶が正しければ明日には祖父母の家に行くはずだ。
 去年は帰省できず家で暇な時間と戦っていたが、祖父母の家に行くのならば今年は少しばかり過ごしやすくなりそうだ。

「帰ろ……」

 家に帰って祖父母の家に行く準備をしなくては。
 机の傍らに置いていた鞄を掴み上げ、担任が押し付けてきた鍵を握り締めると忙しなく席を立つ。

 バサッ。

 その時、半開きになっていた鞄から何か冊子のようなものが床へと転がった。
 音が聞こえた方向へと目を向けると、やけにきれいな日本史の教科書が足元に落ちている。

「ちっ……なんでこんなときに限って…………」

 渋々屈んで、中途半端なページが開いて表紙と裏表紙が上になった教科書を手に取る。
 立ち上がって裏返してみると、開いていたのは大きく『新撰組』と書かれたページであった。
 日本人であれば何処かで耳にしたことくらいはあるだろう。そこから深く歴史を知っている者はあまり多くはないかもしれない。

「日本史なんて、今更勉強して何になるっての……」
 
 所詮は過去の出来事。今更勉強したとて将来生きていく上で役には立たない、それが持論である。
 近頃では歴史の教科書に新撰組が載っていないことも少なくないらしい。
 彼らが一体何をしたのか、今の時代にどう影響したのかなどについて知っている者が必然と減ってきているのだ。
 まあ、自分には関係のないことだが。

「こんどー、いさみ? これ、なんて読むの? ひ、ひじかた、としぞう……。聞いたことのあるような、ないような……?」

 自身の知識の薄さに思わず苦笑が溢れる。辛うじて新撰組という名は知っていたが、そこに属していた人物の名前が誰一人として分からない。
 流石にこれは酷すぎるか。日頃から授業を真剣に聞いていないのが露骨に現れている。

「まあ、どうでもいいや」

 あくまでも過去の人物。今を生きる自分には関係ない。
 日本史の教科書は机の中に無理矢理押し込み、誰もいない教室を後にした。