想いと共に花と散る

 山南が揶揄っていることには気付かないふりをして、雪は一度俯き小さく息を吐いた。
 そして顔を上げ、山南の目を真っ直ぐと見つめる。答えは、決まっていた。

「同行します。させてください」
「……君ならそう言うと思いました。それでは土方君の所に行きましょう」

 満足気に微笑んだ山南は、整列する隊士の正面に近藤と並んで立つ土方へ視線を向けた。
 相変わらず眉間に皺を寄せ、いつも以上に真剣な顔つきをしている。正直言って、今の彼に近づくのは気が引けた。
 それでも今の自分の立場は土方の小姓。彼の傍に仕え、何処へ行くにも彼と共にあるのが役目である。
 雪はその場に待機し、山南が土方の元へと向かっていく。

「土方君、後で少し」
「……ああ、分かった」

 静かに耳打ちをした山南は、土方の傍を離れてすぐに隊の中に紛れ込んだ。土方も近藤が立っている隣に戻り、再び真剣な眼差しを周囲に向ける。
 辺りがしんと静まり返り厳格な空気が漂い始めた時、近藤がすうっと大きく息を吸った。

「壬生浪士組、出立の時だ!」

 声高らかに近藤が叫ぶと、忽ち隊全体の士気が大きく上がったようだ。
 どことなく不安げな表情浮かべた数名の隊士は、近藤の声を聞いて表情をぐっと引き締める。
 全員が同じ羽織を着て、同じ志を持っているからこそ、この一体感を生んでいた。

(すごい……たった一言で、ここまで皆をまとめるなんて)

 所詮はただの寄せ集めの集団でしか無い。それなのにこれだけの団結力があるのは、近藤や土方、その他の隊士の人柄があってこそなのだろう。
 肌を刺す緊張感と感嘆に雪は瞬きすらも忘れていた。
 物陰で呆気にとられている雪になど誰かが気付くはずもなく、浅葱色の羽織を着た隊士達はぞくぞくと屯所を出ていく。
 向かうは原田や山南が口にした、京の街の中心である御所である。

「……話ってなんだ。山南さん」

 ぼんやりとした心持ちのまま皆が出ていく様子を眺めていると、不意に頭上から苛立ちの滲む土方の声がした。
 顔を上げれば当然そこには土方がいる。土方は目下にいる雪には見向きもせず、いつの間にか隣りに立っていた山南を怪訝なお面持ちで見ていた。