想いと共に花と散る

 雪が屯所の前に辿り着く頃には、ほとんどの隊士がすでに整列していた。
 頭上に広がっているはずの青空が、どういうわけか目の前にも広がっている。雪は見慣れない光景を目の当たりにし、思わずその場に立ち止まった。
 
 浅葱色の羽織。青空の下に幾つもの青空が広がっている。

 全員が同じ羽織を身に纏っているからか、規律の高さが一目で感じられた。
 土方が鋭い目で隊列を確認しながら歩く。その姿はまさに戦支度の最中の武士そのものだった。
 その様子を見て、雪はただ立ち尽くすしかなかい。
 自分だけがこの流れの中に入れず、目の前の光景が遠い世界の出来事のように思えた。

「雪君」

 不意に、この場に漂う緊張感とは正反対の穏やかな声が背後から聞こえた。
 振り返れば、今朝方会ったばかりの山南が貼り付けた微笑みを浮かべて立っている。彼の浮かべる微笑みからも緊張が感じられた。

「驚かせてしまいましたね。ですが、大丈夫です。これから我々が向かうは御所であり、頼まれたのはあくまでも“警護”ですから」
「警護……?」
「今夜、京の政の中心が大きく動きます。その影響で御所の周りには多くの公家方や藩の者達が出入りするでしょう。混乱を避けるため、我々も御所に向かうのです」
 
 その説明は優しかったけれど、雪にはどうしても心臓が早くなるのを止められなかった。
 京の政が動く――それは単なる事件ではない。街全体の空気を変えるような事態だ。
 そんな雪の緊張を感じ取ったのか、山南は手本を見せるように一歩大きく踏み出す。

「では、君に選択肢を与えましょう」
「選択肢、ですか?」
「ええ。君の覚悟を問います。このままここで我々の留守を待つか、御所まで同行するか」
「えっ! ご、御所までって……。私も行くんですか?」
「どちらを選んだとて、誰も責めたりはしません。理由ならどうとでも作れますしね」

 ほんの少し和らいだ笑みを浮かべた山南は、雪の反応を楽しむように囁いた。
 屯所の前からは変わらず張り詰めた空気が漂っている。今の二人の間に流れている和んだ空気は、どうにもその空気と混ざりあえずにいた。
 以前、近藤にも今後の命運を決める選択肢を与えられたことがある。

『このまま帰しても家はない、ましてやその身なりをしていれば再び浪士に絡まれることも目に見えている中でここを出るか、それともここで暮らすか、どちらか選ぶといい』

 あの時は初めての場所ということもあって答えるのに戸惑いはあったが、今は違った。