想いと共に花と散る

 なんだか周りが騒がしい。暗闇の中で正体の分からない雑音が響いている。

 ガタンっ!

「うおっ! おい! 押してんじゃねぇよ!」
「ああ、わりぃわりぃ」

 男子の笑い声がすぐ傍で聞こえた。激しい衝撃を受けて目を覚ませば、ちょうどぶつかってきた男子生徒が教室を走り去っていくところであった。

「いった……」

 ぶつかられた衝撃で机の縁に鳩尾が食い込み激しく痛む。直接男子生徒が当たってきた右半身もジンジンと痛い。
 眠っているところを邪魔された。しかもぶつかってきたというのに謝罪の言葉もなし。
 謝られなかったことと、舐めた態度を取られたことに苛立ちがふつふつと湧き上がってきた。
 苛立ちは沸点を超えるが、何だか反抗することすら憚られてもう一度眠るために机に伏せる。
 けれど、心臓が浮いたと錯覚するくらい激しい目覚め方をした身体は、それ以上眠ることはできなかった。

結城(ゆうき)、いつまで寝ているつもりだ。戸締まりするから、さっさと帰りなさい」

 こつんと教科書で頭を叩いた担任の男性教師は、頭上から不機嫌そうな低い声でそう言った。
 とっくに目は覚めていて身体は起きているが帰る気にはならない。
 中々起きようとしない様子を見た担任は、分かりやすい溜息を吐いた後に鍵を机の上に置いた。

「はあ、もうお前が閉じといてくれよ。明日から夏休みなんだってのに、とろい奴だよ。全く……」

 寝ていることをいいことに罵られた気がする。実際には寝ておらず伏せているだけのため担任の声は全て聞こえていた。

(どいつもこいつも、舐めやがって……)

 担任が教室を出ていってからようやく起き上がると、すでに教室の中には自分一人だけになっていた。
 ようやく騒がしい時間が過ぎた。椅子の背もたれに深く身を預け、天井を仰ぎ見ると思わず溜息が溢れ出る。

「夏休み、夏休みかぁ……」

 明日から夏休みという名の長期休暇が始まる。皆が一学期の後半から待ち遠しく思っていたものだ。
 部活に入っているものはほぼ毎日部活に明け暮れ、恋人と出かけたり友達と遊んだり、過ごし方は人それぞれある。

(学校が休みなのは嬉しいけど、やることもないから暇なんだよなぁ)

 しかし、部活に入っていない、友達はいない、行きたいところもない身として夏休みは暇すぎて返って苦痛なのだ。