想いと共に花と散る

 刀を握る力なんて無い、町中を走り回れる体力なんて無い、彼らのような背丈なんてない。
 そして何より、刀を振るって人を斬り殺す覚悟なんて雪にはなかった。
 何もできない雪が壬生浪士組に居続けるには、どんな雑用でも熟すしか無いのである。

「……随分と、自分のことを卑下するのですね」
「別にそんなつもりでは……昔からこうなんです。勉強も運動も駄目、話し掛けられればすぐに拒絶するから人付き合いも下手。気が付けば、親にすら名前を呼んでもらえなくなっていた。そんな私ができることなんて、たかが知れているんですよ」

 無理矢理明るく取り繕って、辺りに散乱した衣服を桶の中へと放り投げる。
 しばらく黙り込む山南も衣服を拾い上げては桶の中へと入れた。

「君は……」

 ふと手を止めた山南が小さく何かを呟いた気がした。
 ゆっくりよ顔を上げると、眼鏡の奥の穏やかな瞳が見つめてくる。
 やけに悲しげであり、何処か寂しげな酷く冷え切った瞳だ。

「雪君は、優しすぎるがゆえに、周りに置いて行かれてしまうのでしょう。きっと、雪君の周りの人はその優しさに気が付いていないのです」
「……やさ、しい………?」
「ええ。もっと我儘になってもいいと思いますよ。ああ、芹沢さんほどは困りますけど」

 冗談めかして微笑む山南だが、雪には聞くだけで震え上がる名を聞かされて笑えるはずがなかった。
 あの黒羽織の男は我儘という言葉では収まりきらない。
 傲慢、乱暴、粗暴、乱行そういった言葉ですらあの男は言い表せないのだ。
 何処の馬の骨とも知れないのは雪も同じ。出会ってそうそう髪を掴むなどの乱暴な扱いを受けて、仲間として見ろなんて言われても許せないのだった。

「あ、あの……山南さん」
「何でしょう?」
「その、芹沢、さん? っていう人は一体誰なんですか? いつもお酒を飲んでいるし、乱暴だし……。なんというか、近藤さんや山南さん達のお仲間には到底見えなくて」

 流石に出過ぎた真似だっただろうか。現に、雪の問を受け止めた山南は、目線を逸らして口を噤んでいる。
 雪は、あの黒羽織の男の横暴さを身を持って実感した。 それは山南も同じなのだろう。
 もしも、あらぬ言われようをしたことを本人に知られてしまえば、雪は基、山南も乱暴な扱いを受けてしまうかもしれない。
 そう考え至った雪は、慌てて質問を撤回しようとした。