小姓の仕事とは、主に土方の命令に従うことである。
刀をまともに握られない雪は、土方に雑用を押し付けられてばかりであった。隊士達の衣服を洗ったり、屯所内外を掃除する。
日頃、刀を携える彼らとは違って、平々凡々な時間を過ごしていた。
この日も普段通り、隊士達の衣服が山積みになった桶を抱えて縁側を歩いく。
庭に降りようと傍らに桶を置いて足を放り出した時、
「てめぇら! 俺の酒を勝手に下げるなって言っただろうがッ!」
何処かからかあの黒羽織の男の怒鳴り声が聞こえてきた。
突然の怒鳴り声に驚いたのは言わずもがな、数日前の朝に起きたあの一件から、すっかり黒羽織の男に対して恐怖心を抱くようになっていた。
この時も、声が聞こえるなり身体が強張った。反動で傍に置いていた桶に手が当たり、洗濯物を当たりに散乱させる。
「……最悪………」
縁側から飛び降りて庭に出た雪は、募る怒りに打ち震えながら屈んで衣服を拾い上げた。
一枚一枚が汗を吸収して重みを増している上に、量が尋常ではない。桶から溢れるほどの量を拾って再び戻すなど気が遠くなる。
「おやおや、これはまた派手にひっくり返してしまいましたね」
俯いて必死に衣服を拾い上げる雪の頭上から聞き慣れない声が降ってきた。
手元に落としていた視線を上げる。太陽を背にしていたことで逆光に隠れていた顔は、彼が同じ目線になるまで屈んだことで明らかになる。
「あ、貴方は……?」
「こうして顔を合わせるのは初めてでしたね。私は、山南敬助といいます。噂は聞いていますよ。何も、あの土方君の小姓になったとか」
「は、はい。結城雪です」
眼鏡の奥の瞳は優しさと人情に溢れ、彼がこの血生臭い壬生浪士組の中では比較的常識人であることが感じられる。
ゆったりとした話し方は何とも落ち着く。土方に怒鳴られてばかりの雪にとって、山南の穏やかさは癒しになりそうであった。
「これだけの量を一人とは大変でしょう。土方君、頭はキレますがこういうところにまで気が回らない節があるのですよね」
「そんな……。私は刀を振るわけじゃありませんし、皆さんみたいな逞しい身体があるわけでもありません。これくらいできないと、お役に立てません」
誰のかも分からない衣服をぎゅっと握り締め、吐き捨てるように言う。
土方の小姓として過ごすようになってから数日、雪の中で何もできない劣等感が募っていたのだ。
刀をまともに握られない雪は、土方に雑用を押し付けられてばかりであった。隊士達の衣服を洗ったり、屯所内外を掃除する。
日頃、刀を携える彼らとは違って、平々凡々な時間を過ごしていた。
この日も普段通り、隊士達の衣服が山積みになった桶を抱えて縁側を歩いく。
庭に降りようと傍らに桶を置いて足を放り出した時、
「てめぇら! 俺の酒を勝手に下げるなって言っただろうがッ!」
何処かからかあの黒羽織の男の怒鳴り声が聞こえてきた。
突然の怒鳴り声に驚いたのは言わずもがな、数日前の朝に起きたあの一件から、すっかり黒羽織の男に対して恐怖心を抱くようになっていた。
この時も、声が聞こえるなり身体が強張った。反動で傍に置いていた桶に手が当たり、洗濯物を当たりに散乱させる。
「……最悪………」
縁側から飛び降りて庭に出た雪は、募る怒りに打ち震えながら屈んで衣服を拾い上げた。
一枚一枚が汗を吸収して重みを増している上に、量が尋常ではない。桶から溢れるほどの量を拾って再び戻すなど気が遠くなる。
「おやおや、これはまた派手にひっくり返してしまいましたね」
俯いて必死に衣服を拾い上げる雪の頭上から聞き慣れない声が降ってきた。
手元に落としていた視線を上げる。太陽を背にしていたことで逆光に隠れていた顔は、彼が同じ目線になるまで屈んだことで明らかになる。
「あ、貴方は……?」
「こうして顔を合わせるのは初めてでしたね。私は、山南敬助といいます。噂は聞いていますよ。何も、あの土方君の小姓になったとか」
「は、はい。結城雪です」
眼鏡の奥の瞳は優しさと人情に溢れ、彼がこの血生臭い壬生浪士組の中では比較的常識人であることが感じられる。
ゆったりとした話し方は何とも落ち着く。土方に怒鳴られてばかりの雪にとって、山南の穏やかさは癒しになりそうであった。
「これだけの量を一人とは大変でしょう。土方君、頭はキレますがこういうところにまで気が回らない節があるのですよね」
「そんな……。私は刀を振るわけじゃありませんし、皆さんみたいな逞しい身体があるわけでもありません。これくらいできないと、お役に立てません」
誰のかも分からない衣服をぎゅっと握り締め、吐き捨てるように言う。
土方の小姓として過ごすようになってから数日、雪の中で何もできない劣等感が募っていたのだ。



