想いと共に花と散る

 土方が去った後、雪は自身の頭頂部に手を乗せる。黒羽織の男に引っ張られたせいで何本か抜けてしまった。
 ズキズキ、ヒリヒリとした痛みを感じる頭頂部を優しく撫で付ける。
 昨日、土方に説教を受けて反省するために庭の掃除をしていただけなのに、どうしてこんな面倒なことになってしまったのだろう。

「雪! 大丈夫か!? 何処か、怪我をしてたりしてねぇか!」
「ごめん、俺達がいながら何もできなくてっ……」

 光の速さで目の前にまでやって来た二人は、身体の周りで動き回ったり着物の上から触れて怪我の有無を確認してくる。
 青ざめた顔をする二人を見ていると、返って冷静になってきた。
 雪は二人の手を握ってぐいっと顔を近づける。突然触れられた二人は驚いた様子で動きを止め、雪を見下ろした。
 腰まである長い髪を揺らして雪は二人の顔を見上げる。

「……ありがとう」

 その言葉は、自然に口から零れ落ちた。純粋に嬉しかったのだ。
 二人が身の危険を案じて助けようと声を上げてくれたこと。
 こうして怪我の有無などを心配してくれること。
 何もできなかったと自分を責めてまで心配してくれること。
 そして何より、誰かに心配してもらえた子度が嬉しかったのだ。

「な、んで……なんでだよ………俺達、何もできなかったんだぜ。お前が痛い目に遭ってんのに、土方さんみたく芹沢さんを止めることすら」
「ううん、いい。そんなことはいいの。私はただ、こうして誰かに少しでも意識を向けてもらえるだけで、それだけでいいの」

 二人の手の温もりを一心に感じながら、そっと目を閉じる。
 肉刺だらけ、傷だらけの二人の手はあの黒羽織の男の手よりもずっと暖かく、そして優しさがある。
 初めて握った誰かの手、初めて握り返してくれた誰かの手。
 自分以外の手は、こんなにも温かいのだと気付かせてくれた。

「ありがとう、二人とも。私、頑張るから。皆の役に立てるように、ここにいても邪魔にならないように頑張るから」

 二人の顔をよく見るために目を開ける。目に焼き付けておきたかった、誰よりも何よりも強い二人の武士の姿を。
 男のフリを続けていようと彼らのような男になることはできない。背も、手も、肩も何もかも雪は小さい。
 それでも、まともに刀を握れなくとも、こうして誰かの手は握れる。
 この二つの手は、誰かの温もりを感じるために神様が与えてくれたものなのだ。