想いと共に花と散る

 揶揄われていることに不貞腐れながらも、雪は庭の中を忙しなく動き回りながら落ち葉を集める。
 日頃から鍛錬を重ねているため体格のいい沖田と藤堂よりも、小柄な雪の方が彼らより余っ程働いていた。

「あっ、雪。そこ根が出てるから気を付けろよ」
「え? って、うわあ───!」

 藤堂が言った傍から足元に顔を出していた根に足を取られる。
 箒を握ったまま前のめりに身体は弾かれ、思わずぎゅっと強く目を瞑った。
 その時、ふわりと何かに身体を支えられる。転んだことによる衝撃も痛みもなく、恐る恐る目を開けると沖田の顔がすぐ目の前にあった。

「おっと……危ない危ない。大丈夫?」
「あっ、そ、総司君っ………大丈夫、ありがとう」

 やはり男性であるからか、簡単にその逞しい腕の中に収められてしまった。
 身体を支えられながら地に足をつけた雪は、沖田の顔を見上げる。
 土方に説教をされている時に傍観していた隊士達よりも、沖田は華奢な体つきをしているように見える。しかし、実際はその逆であった。
 一瞬でも年上の異性に抱き締められたことが、雪の頭の中をあらぬ考えで満たしていく。

「雪? 顔が赤いけど、熱でもある?」
「な、ないよ! なんでもない! 大丈夫!」
 
 顔の前で手を振りながら否定した後、彼の前から逃げるようにして移動する。
 八木邸の門の近くに移動した雪は、極力沖田の方には顔を向けないように足元を見ながら手を動かした。
 今彼の顔を見てしまうと余計なことを考えてしまいそうだったからだ。
 火照った頬に手を添え、ゆっくりと呼吸を整える。暴れ回っていた心臓は少しずつ鳴りを潜めていった。

(……ないない。相手は年上でましてや日頃から刀を振り回してるような人なんだから)

 壬生浪士組である彼らは、どれだけ笑っていようが気を遣ってくれようが元を辿れば人斬り集団なのである。
 今はその気がないとしても、時が来れば雪のことを簡単に切り殺せる。
 そんな彼らに無駄な情を持つなど命知らずにもほどがあるというものであった。
 
「早く終わらせちゃおう……」

 誰にも聞かれることのない独り言を呟き、足元の落ち葉を箒で掻き集める。
 と、その時。突然、視界が雲が掛かったように暗くなった。

(あれ、さっきまで明るかったのに。曇ってきたのかな───……)
 
 不思議に思って顔を上げると、目の前を真っ黒な何かが立ちはだかっていた。