想いと共に花と散る

 不用意に口を滑らせてしまったことに気づいた雪は、ぱちりと瞬きをした。
 雪を見つめる沖田の瞳は子供のようにきらきらと輝き、揶揄う準備は万全のようである。
 藤堂に向けていた身体を沖田の方に向けると、目と鼻の先に彼の顔がある。背後にいる藤堂が小さく溜息を吐いたのを雪は聞き逃さなかった。

「反抗って、どういうこと? ねぇ何したの、雪」

 ぐいっと距離を詰めてくる沖田に、雪はじりじりと後退りするが正座をしている為逃げることはできない。その上藤堂がいるのだから尚更である。

「ひ、ひみつ……!」

 口を尖らせ手で顔を覆いながら言った瞬間、周囲の隊士達は「おお?」と興味津々にざわめいた。
 藤堂までもが、半ば呆れたような顔で雪に身を寄せてくる。
 気が付いた頃には、沖田と藤堂に左右から身体を寄せられ逃げ道が無くなってしまっていた。

「お前、いつの間に土方さんに反抗なんかできるようになったんだよ。俺聞いてねぇぞ?」
「だ、だって……! あの時は、なんか……気が付いたら言ってたの!」
「へえぇー?」

 藤堂と沖田が、まるで面白い玩具を見つけたかのように雪の顔を覗き込む。

「ち、違っ……! ほんとに、あの時だけなんだから……!」
「でもさ、雪が土方さんに言い返してるところ、俺見たかったなぁ」

 沖田は楽しそうに頬を緩め、藤堂は肩で笑う。
 言えるはずがない。この時代に迷い込み、浪士に刀を向けられ死のうとしたことなど、この二人には絶対に言えない。

「見てみたいっていうか、次またやってくれよ。俺の前で」
「や、やだぁ……むり……!」

 ブンブンと首を振りながら拒絶すると、沖田も藤堂も声を上げて笑った。
 そんな和やかな空気がしばらく続いた時、離れの外を一瞬誰かが通り過ぎた気配がした。
 妙に鋭い視線だけが、部屋の中に残る。それに気づいたのは沖田だけだった。

「……あー。これは、明日の掃除、本気で頑張らないといけないかもねぇ」
「え、どうして?」
「土方さん、今ちょっと戻ってきてた」
「えっ!?」

 雪の悲鳴と、隊士達の爆笑が離れいっぱいに響き渡った。