想いと共に花と散る


「俺は袴を買いに行けっつったはずだ」

 八木邸の離れの中に土方の低く威圧する声が響き渡る。
 壁に沿うようにして座る隊士達は、部屋の中心に正座する三人組を見てケラケラと笑っていた。
 部屋の中心に座らせられている三人組というのは、雪、沖田、藤堂である。

「その上、甘味も食ってきたらしいじゃねぇか」
「それに関しては総司が言い出したことだ!」
「着物を買おうって言い出したのは平助だろう」
「どっちの言い分も聞いちゃいねぇんだよ! ただでさえ面倒事に巻き込まれてんだこっちは。町中で変な噂でもされてみろ、俺らの立場は危ぶまれるんだ。そんぐらい分かんだろ」

 眉間に皺を寄せ血管を浮かべて怒りを露わにする土方にすら、二人は反抗的な態度を取れるらしい。
 到底雪には反抗することすらできず、こうして正座させられてからというもの俯いて一言も発さずにいた。

「おい雪」
「は、はひぃ!」
「てめぇは俺の小姓だっていう自覚がないみてぇだな」
「……そ、れはぁ………いきなり言われても、初めてだし………どうしたらいいのかブツブツ」
「近藤さんの前で見せたあの威勢の良さは何処へ行きやがったんだ。……ったく、てめぇ等三人は反省するように明日の朝になったら庭の掃除しとけ」

 そう言って話を切り上げた土方は、後ろで一つに束ねた長い黒髪を揺らして部屋を出ていく。
 離れの中には再び隊士達の騒がしい声に満たされた。そのほとんどが雪達を揶揄うものである。
 ずっと俯いて土方の雷を全身で受けていた雪は、ゆっくりと顔を上げて隣で同じく正座している藤堂の顔を覗いた。

「はあ……。総司が土方さんに上手く言っておくって言ったくせに、結局怒られてんじゃんか」
「仲間を売る奴に言われたくないんだけど」
「んだと!?」
「ちょ、ちょっと二人とも! 今喧嘩したら余計に土方さんに怒られちゃうよ。ここは言うことを聞いて、明日の朝、庭掃除頑張ろう?」

 雪が二人を窘めれば、周囲から「そーだそーだ!」「雑用頑張れー」なんていう野次が飛んでくる。
 二人の機嫌は増々悪くなり、不貞腐れた様子の藤堂が唇を尖らせた。
 そんな様子の藤堂の肩に手を添え、慰めるためにぽんぽんと叩いてみる。

「ちぇっ、何やっても土方さんには逆らえねぇのが腹立つ」
「土方さんに逆らう気だったの……? やめとこう? 私も流石に二度も反抗できないよ」
「何、雪土方さんに反抗したの?」

 雪の左側に座っていた沖田が身を乗り出して問うてくる。
 心配している様子は微塵もなく、ただ好奇心による問のようである。