想いと共に花と散る

 しばしの沈黙の後、先に動きを見せたのは赤髪の男だ。赤髪の男が踏み込んだ瞬間、空気が震えた。
 地面を蹴る音が一度、そして次の瞬間には、木刀が唸りを上げて振り下ろされる。雪はその一撃を見ただけで背筋が凍った。まるで生き物が吠えたかのような、荒々しく重い音。

 ガアンッ!!

 激しい木と木のぶつかり合う音が裏庭に響き渡った。茶髪の男は一歩たりとも後ろに引かず、赤髪の男の剛力の一撃を正面から受け止めていた。だが押し負けないだけではない。受けた瞬間にはすでに体を捻り、相手の反撃の隙を伺っている。

(な、何……この人達……)

 雪はただ呆然と立ち尽くすしかなかった。稽古だと分かっていても、今にも血が飛び散りそうな殺気を感じる。
 そんな緊張感が漂う中、木刀を交えて動きを止めた赤髪の男が豪快に笑った。

「良いじゃねぇか永倉ァ! 今の、ちゃんと受けたな!」
「受けた? 押し返してやったんだよ。鈍くせぇだけの突撃じゃ俺には当たらねえよ、左之」

 茶髪の男は細めた目で赤髪の男をじろりと見た。その視線には挑発と、ほんの少しの愉しみが混じる。
 赤髪の男はその挑発を真正面から飲み込み、さらに興奮した様子で笑った。

「へぇ……なら次で仕留めてやるよ!」

 木刀を握り直し、足を前に滑らせる。茶髪の男の姿がふっと沈んだように見え、雪は瞬きを忘れた。
 二人の間の空気が、ゆっくりと、しかし確実に熱を帯びていく。
 周囲の隊士達は慣れた様子で黙って見守っていたが、誰一人として軽口を叩かない。それが、この勝負がどれほど本気なのかを物語っていた。
 再び茶髪の男が短く呟く。その声はあたりの空気を鋭く震わせ、雪の胸の奥にまで突き刺さった。

「……舐めんな」

 挑発とも、合図とも取れる低い声。
 赤髪の男が全身の筋肉を爆ぜさせるようにして駆ける。茶髪の男はは迎え撃つように前へと躍り出る。
 耳に痛いほどの衝撃音が連続し、雪は思わず身を縮めた。さっきまで賑わっていた八木邸が嘘みたいに静かで、裏庭のこの一角だけが異様に濃い熱気を放っている。
 沖田と藤堂はというと――。

「うん、今日も元気元気」
「なー、やっぱ新ぱっつぁんのほうが一枚上手だよなぁ。左之さん、力任せなんだよ」

 二人はあくまで日常のように会話している。雪だけがこの空気に飲まれていた。