行きの道は随分と長いように感じたが、帰りの道はあっという間であった。
 静かな道に三人の笑い声が響く。屯所が見えてくると、自然と三人の足取りは軽くなった。
 手は繋いだまま、誘われるようにして走り出した三人は八木邸の門を潜る。

「うおおお!」
「まだまだああ!」

 ガン! ゴン! バキッ!

 ほのぼのとした雰囲気に飲まれようとしていた雪に、何やら聞き捨てならない音が聞こえた。
 玄関先にいた雪達はその音が聞こえる方へ意識を向ける。
 鈍い打撃音は鳴り止むことはなく、時折咆哮のような男性の声も聞こえてきた。

「な、何……?」
「あー、あいつらだな」
「あいつら?」
「この時間になるといっつもこうなんだよね。本当、懲りないねぇ」

 この激しい物音と叫び声が彼らにとっての日常なのか。
 当たり前のような口ぶりで言った沖田は、呆れた様子で裏庭へと向かう。その後を藤堂がやけに楽しげな笑顔を浮かべて付いて行った。
 玄関先に一人残された雪は、再び感じる恐怖に身を縛られた。

「ま、待って!」

 正体の分からない音が聞こえる空間に一人でいるほうがよほど恐ろしい。
 雪は裏庭へと向かっていく沖田と藤堂の背中を慌てて追った。

「おーおー。やってらやってら」
「………何してるの、これ」

 裏庭には、数人の隊士が上半身裸の状態であちらこちらに座っていた。皆滝のような汗をかいていて、木刀を持っているのを見る限り稽古終わりのようである。
 隊士達は庭の中心を囲うように座っており、その開けた場所を見てみると、二人の上裸の隊士が向かい合って立っていた。

「おい! もうへばったか左之」
「ああ!? んなわけねぇだろ、もう一本!」

 赤髪の大柄な男は、木刀を構え直し鋭く目の前の男を睨めつける。
 向かいの尖った茶髪の男は、木刀の先まで神経を貼り巡らかせたかの如く隙のない構えを取った。
 両者とも、その厳格な佇まいから只者ではないと察せる。
 
「……来い」

 茶髪の男はそう呟き、目付きだけで相手を殺さんとする眼光で赤髪の男を睨めつけた。