想いと共に花と散る

 着付けを終えた雪は、沖田達が待つ店先へと戻るため一階へと降りた。
 店の中にいる客人と自身の格好を見比べ、雪は小さく息を吐く。袴を着て草履を履いた姿は、この時代によく馴染んでいた。
 草履と言うと、裸足で歩き回っていた雪を案じた小夜がくれたのである。
 着付ける前と同じく、小夜が雪の手を握って先へと進む。
 あと一歩で店を出るといったところで、不意に雪は立ち止まった。手を引いていた小夜は、突然立ち止まった雪を不思議そうにしながら振り返った。

「どうしたのー?」
「な、なんだか……こんな格好してるの、恥ずかしい……かも」

 慣れない格好というのは、そう簡単に受け入れられるものではない。ましてや、男のフリをするために袴を着ている状況に不安が募ったのである。
 俯いて不安にかられる雪をしばらく見つめていた小夜は、手を離して真横に立った。
 小夜は雪の肩に手を回し、顔を覗き込む。彼女は優しく微笑みを浮かべ、安心付けようとした。
 そんな小夜の気遣いを感じ取った雪は、肩に置かれた彼女の手に触れる。そしてそのまま軽く肩を支えてもらいながら、雪はゆっくりと前へ一歩を踏み出した。
 見慣れない服装にまだ少し緊張するものの、先程までのもじもじした様子は少し和らいでいた。

「ほら、落ち着いて歩けば大丈夫。堂々としていれば誰も気にしないよ」

 小夜の声に励まされ、雪は背筋を伸ばす。通りを歩く足取りは少しぎこちないが、確実に前へ進んだ。
 店先に戻ると、沖田と藤堂が長椅子に座っている。二人が店から出てくると、物音で気づいたらしい沖田が二人に目を向けた。
 小夜の背後で恥ずかしがる雪のその姿に、沖田は目を細めにこやかに笑う。

「おかえり。いい感じじゃん、袴姿」
「雪、すごく似合ってるぞ」

 藤堂も雪の袴姿を見て満足そうに頷く。
 着慣れていないせいで動きや佇まいに不自然さが残っているが、これで周りの目を気にせず外を出歩けるようになった。自分の境遇を彼らに知られる心配はないようである。
 雪は頬を薄く赤くしながらも、胸を少し張り二人の視線を受け止めた。小夜がそっと手を離すと、雪は自分一人の足で立つ。

「ありがとう、小夜……手伝ってくれて」
「えへへ、いいのいいの」

 そんな安心感と共に、雪は初めての袴姿で堂々と二人の前に立った。
 この瞬間、見知らぬ土地に迷い込んだ雪華という少女は、新たに壬生浪士組の仲間入りをする雪という少年へと姿を変えた。