想いと共に花と散る

 
「てめぇが言ったんだ。俺の傍にいるって……てめぇが言ったんじゃねぇか」
「何も未来に帰るわけじゃないですよ。ただ、江戸に行くだけです」
「それでも、俺の傍から離れることにゃ変わりねぇだろうが」

 どうしてそんなに離れることを嫌がるのかな……。
 思わずそんな言葉が口を突いて出てしまいそうだったが、何とか飲み込む。
 こんなことを言うような人じゃなかった。何かに固執して、無理矢理引き留めようとするような人じゃなかった。
 出会って早々刀を向けてきて、人の顔を見るなり嫌いだって言い出して。

「土方さん、いつも満足に戦えていないですよね」
「……何が言いてぇ」
「何処で戦う時も、私のことを優先しようとする。前に私に帰る場所になれって言ったの……あれ、自分が生き残るための理由にするためですよね」

 理由がなければ、生きることを諦めてしまうような人なのだ。帰る場所がなければ、何処かで野垂れ死んでもいいと思っている人なのだ。
 
「私が土方さんを縛り付けてるんです。私がいたら、土方さんを壊しちゃう」
「そんなことねぇ」
「土方さんは誰よりも優しいから、これからも私のことばかり優先しようとしちゃう」
「俺はお前の主だ。小姓を優先すんのは、当たり前だろ」
「私がいない方が、土方さんはもっと自由になれる」

 もしも、あの夜に彼が偶然通り掛からなければ。
 もしも、彼に刀を向けられて楽になりたいなどと言わなければ。
 もしも、彼らの元から早くに逃げ出していれば。
 もっとずっと、違う未来があったんじゃないかって考えてしまった。

「わっ───……」

 変えてしまったのだ。自分が土方歳三という男を。
 だって、こんなに繊細な人だなんて知らなかった。もっと乱暴で、意地悪で、怖くて、怒ってばかりで。
 怖いものなんて何一つ無い、孤高の存在だったはずなのに。
 
「二度もてめぇは、俺の前からいなくなる気か……」

 遊び人だったとは思えないほど、それはそれは優しく抱き締められた。
 やっぱり、沖田が嘘を吐いたのではないか。昔から土方にいたずらばかりしていたようだから、あの時もきっと揶揄っていたんだ。
 
「自由なんざどうだっていいんだよ。俺は、ただ本気で守りたいと思ったもんを守りてぇだけだ」
「えっ……?」
「傍にいてほしいのはな、何もお前だけじゃねぇ。俺もそう思ってんだ」

 こういう時、もっと華やかな見た目をしていれば少しくらいそういう雰囲気になったのだろうか。
 端から見れば、少し歳の離れた兄弟が抱き合っているようにしか見えない。
 そのせいで、雪には土方の本心がほとんど届かなかった。