想いと共に花と散る









 あれから、土方は三日間眠り続けた。相当な疲労を溜め込んでいたようで、一度も目覚めず眠っていた。

「土方さん、今いいですか?」

 誰よりも疲弊していたのに、土方は目覚めるなり文机に向かう。
 彼が筆を握るのは、俳句を作るためではなく、近藤の無罪を主張するため。

「私、江戸に行きます。土方さんじゃなくて私なら、近藤さんを解放してもらえるかもしれない」
「……余計なことに気を回すな」
「ここで何もせずに寝ている方が余っ程余計です」

 日本中にその名を知らしめた土方では話すら聞いてもらえない。現に、彼は時間を掛けて書いた書状を何十枚と辺りに散らばらせていた。
 その反面、ほとんど外に名前が漏れていない雪であれば、話だけでも聞いてもらえる可能性がある。
 雪はその可能性に賭けたのだ。

「せめて、私にも抗わせてください。もう、守られてばかりは嫌なんです」
「行って何になる。仮に近藤さんを解放してもらえたとして、道中で殺されるかもしれねぇぞ」
「その時は、私が近藤さんの盾になります」
「……っ! てめぇ、自分が何を言ってんのか分かってんのか?」

 握っていた筆を勢いよく硯に叩きつけ、振り返った土方の額には血管が浮かび上がっていた。
 誰もが恐れた鬼の顔がそこにある。けれど、雪は怯えること無く見つめた。

「ちゃんと、考えて言ってます」
「その割には、随分とわけが分からねぇことを言ってるが」
「土方さんが眠れていなかったの、ただ近藤さんの無罪を訴えに行っていただけじゃないですよね」

 振り返ったまま土方は何も言わない。それを肯定と捉えて、雪は続けた。

「私のことを寝る間も惜しんで監視していたってとこですか」
「意味が分からねぇ」

 土方は、考えることを辞めたい時、いつもそう言って目を逸らす。
 初めて彼に出会い、浪士から雪を助けた時も同じ事を言って同じ様に目を逸らした。
 
「土方さんは、こんなところで筆を動かしてばかりいる存在じゃ駄目です。皆が残したものを未来に届ける人じゃないといけない」
「てめぇは違うって言うのか?」
「私はこの時代の人間じゃないんですよ。いてもいなくても、歴史には関係ない」
「───……ざっけんな!」

 文机の前から離れた土方は、雪の着物の胸倉を掴んだ。
 やっぱり、休みきれていないらしい。目の下の隈が今も浮かんでいる。
 顔を顔が近づいても、雪は表情一つ変えなかった。怒りに歪んだ土方の顔をぼんやりと見つめるだけ。