変わらず状況が飲み込めていない雪の無防備な姿に、沖田は思わず頭を抱えた。
藍色が好きだとか、生地の手触りが気に入ったとか、そういった理由を期待していたのだ。まさか、痛ましいその首の傷を付けた浪士が着ていた色だからという物騒な理由が返って来るなど、想像だにしなかった。
それでも雪が選んだという事実が二人を押し黙らせたのか、沖田と藤堂は呆れつつも頷いてみせた。
土方から預かっていた金で藍色の袴の支払いを終え、三人は店を出る。と、その直後、藤堂が店の真ん中でふいに立ち止まった。
「なあ。やっぱりさ、一着くらいいいんじゃねぇの、女物の着物」
「土方さんに頼まれたのは袴だよ。別に必要ないんじゃない?」
「そーだけどさ……小姓だって言ったって、雪華 は女子なわけだし。それらしい格好をする時があったって、誰も文句言わねぇだろ」
店の入口で振り返る雪と沖田を交互に見やりながら、藤堂はぶつぶつと独り言のように言う。
年配の店員が不審げな視線を送っているが、当人はまるで気にしない。
ただ真っ直ぐと雪を見つめて、あくまでも一つの提案だと言い張っている。
「……自分が見たいだけでしょ。雪が着物を着ているとこ」
「ばっ! べ、ベベベ別にそんなんじゃねぇし! ただ、ここまで着て買わねぇのは持ったいねぇと思っただけで!」
「はは、必死すぎ。まあでも、平助の言わんとすることは分かるな。俺も雪が着物を着ているところを見てみたいし」
そう言って、沖田は含みのある微笑みを雪に見せた。
幸い、土方が預けてくれた金は、着物一着程度なら十分買えるほど余っている。それを使うかどうかは雪に委ねる───沖田はそう告げているのだ。
再び二人から期待の眼差しを向けられ、雪はしばし口を閉ざした。
不本意とはいえ、男装用の袴を買ってもらったばかりである。そのうえ着物までねだるような形になるのは図々しいのでは、と胸の奥の遠慮が迷いを掻き立てた。
「雪はどうしたい?」
何かに迷いを見せる時、沖田はこうして考える手立てを与えてくれる。
あくまでも選ぶのは君だと言ってくれるようで、雪はその優しさに知らず知らず甘えていた。
「……いいの?」
「いいよ。土方さんには俺から上手く言っておく」
「じゃあ……見てみたい。着物なんて、初めてだから」
店内を見渡しながら薄く笑って答えると、傍らの沖田は一瞬、目を丸くした。
その表情の変化に、雪が気付くことはなかった。
藍色が好きだとか、生地の手触りが気に入ったとか、そういった理由を期待していたのだ。まさか、痛ましいその首の傷を付けた浪士が着ていた色だからという物騒な理由が返って来るなど、想像だにしなかった。
それでも雪が選んだという事実が二人を押し黙らせたのか、沖田と藤堂は呆れつつも頷いてみせた。
土方から預かっていた金で藍色の袴の支払いを終え、三人は店を出る。と、その直後、藤堂が店の真ん中でふいに立ち止まった。
「なあ。やっぱりさ、一着くらいいいんじゃねぇの、女物の着物」
「土方さんに頼まれたのは袴だよ。別に必要ないんじゃない?」
「そーだけどさ……小姓だって言ったって、雪華 は女子なわけだし。それらしい格好をする時があったって、誰も文句言わねぇだろ」
店の入口で振り返る雪と沖田を交互に見やりながら、藤堂はぶつぶつと独り言のように言う。
年配の店員が不審げな視線を送っているが、当人はまるで気にしない。
ただ真っ直ぐと雪を見つめて、あくまでも一つの提案だと言い張っている。
「……自分が見たいだけでしょ。雪が着物を着ているとこ」
「ばっ! べ、ベベベ別にそんなんじゃねぇし! ただ、ここまで着て買わねぇのは持ったいねぇと思っただけで!」
「はは、必死すぎ。まあでも、平助の言わんとすることは分かるな。俺も雪が着物を着ているところを見てみたいし」
そう言って、沖田は含みのある微笑みを雪に見せた。
幸い、土方が預けてくれた金は、着物一着程度なら十分買えるほど余っている。それを使うかどうかは雪に委ねる───沖田はそう告げているのだ。
再び二人から期待の眼差しを向けられ、雪はしばし口を閉ざした。
不本意とはいえ、男装用の袴を買ってもらったばかりである。そのうえ着物までねだるような形になるのは図々しいのでは、と胸の奥の遠慮が迷いを掻き立てた。
「雪はどうしたい?」
何かに迷いを見せる時、沖田はこうして考える手立てを与えてくれる。
あくまでも選ぶのは君だと言ってくれるようで、雪はその優しさに知らず知らず甘えていた。
「……いいの?」
「いいよ。土方さんには俺から上手く言っておく」
「じゃあ……見てみたい。着物なんて、初めてだから」
店内を見渡しながら薄く笑って答えると、傍らの沖田は一瞬、目を丸くした。
その表情の変化に、雪が気付くことはなかった。



