立って、立って、立って、立って、立って、立って!
何回もそう叫んだ。それなのに、近藤は目も合わせない。
すぐ近くで銃声が鳴った。騒がしい足音も聞こえてくる。
流石にこれ以上ここに留まってはいられない。一刻も早くここを出なければ、本当に全滅してしまう。
『近藤さん!』
雪と土方の声が重なって、広間中に響いた。
そこでようやく近藤は目を開ける。色のない瞳には、この場には似つかわしくない幼い少年が映った。
「行け」
「近藤さんっ!」
「行けと言っているんだ! ここは私が殿を担う」
殿って何。そんなことを問う暇も無かった。
「……巫山戯んじゃねぇ。あんたは、こんな所で終わる珠じゃねぇだろうが!」
「それはお前も同じだ、トシ。お前には終わってほしくない」
二人が主張する願いは、雪の願いでもあった。
近藤にも土方にも終わってほしくない。生きていてほしい。
だから逃げようと言っているのに、近藤は一向に立ち上がろうとしない。それが理解できなくて、雪はひたすら近藤の手を引いた。
「雪君。トシと逃げなさい。君もここで散ってはならん」
「嫌です! 近藤さんが行かないなら、私も行かない!」
「お願いだ、聞いてくれ。最後の願いだ、私を君の父親にならせてくれ」
ここで手を離さなければ、きっと違う未来があった。
けれど、雪はその言葉を聞いた瞬間に手を離してしまった。
父親、その言葉が雪の心の奥を鋭く刺す。目の前で笑う近藤を見た瞬間、雪の目からは堤防が決壊したように涙が溢れ出してきた。
人とは、最期の瞬間が近づくと消え入りそうな儚さを醸し出す。
今の近藤からは、そんな危うさが感じられた。
「君の父として、私はここに残って時間を稼ぐ」
「近藤さんは、近藤さんは……私のお父さん、なんでしょ? なら、一緒に来てよ……」
いつだって「そうだな」と言って笑ってくれた。
どんな時だって褒めてくれるのは近藤で、叱ってくれるのは土方で、支えてくれるのは幹部の皆だった。
父親からの愛情とやらを教えてくれたのは近藤。居場所を与えてくれたのは近藤。雪を一人の人間として初めて認めたのは、近藤だった。
「近藤勇は君の父親だ。けれど、今の私は大久保大和なのだよ。新撰組局長、そして君の父親の近藤勇ではない」
何回もそう叫んだ。それなのに、近藤は目も合わせない。
すぐ近くで銃声が鳴った。騒がしい足音も聞こえてくる。
流石にこれ以上ここに留まってはいられない。一刻も早くここを出なければ、本当に全滅してしまう。
『近藤さん!』
雪と土方の声が重なって、広間中に響いた。
そこでようやく近藤は目を開ける。色のない瞳には、この場には似つかわしくない幼い少年が映った。
「行け」
「近藤さんっ!」
「行けと言っているんだ! ここは私が殿を担う」
殿って何。そんなことを問う暇も無かった。
「……巫山戯んじゃねぇ。あんたは、こんな所で終わる珠じゃねぇだろうが!」
「それはお前も同じだ、トシ。お前には終わってほしくない」
二人が主張する願いは、雪の願いでもあった。
近藤にも土方にも終わってほしくない。生きていてほしい。
だから逃げようと言っているのに、近藤は一向に立ち上がろうとしない。それが理解できなくて、雪はひたすら近藤の手を引いた。
「雪君。トシと逃げなさい。君もここで散ってはならん」
「嫌です! 近藤さんが行かないなら、私も行かない!」
「お願いだ、聞いてくれ。最後の願いだ、私を君の父親にならせてくれ」
ここで手を離さなければ、きっと違う未来があった。
けれど、雪はその言葉を聞いた瞬間に手を離してしまった。
父親、その言葉が雪の心の奥を鋭く刺す。目の前で笑う近藤を見た瞬間、雪の目からは堤防が決壊したように涙が溢れ出してきた。
人とは、最期の瞬間が近づくと消え入りそうな儚さを醸し出す。
今の近藤からは、そんな危うさが感じられた。
「君の父として、私はここに残って時間を稼ぐ」
「近藤さんは、近藤さんは……私のお父さん、なんでしょ? なら、一緒に来てよ……」
いつだって「そうだな」と言って笑ってくれた。
どんな時だって褒めてくれるのは近藤で、叱ってくれるのは土方で、支えてくれるのは幹部の皆だった。
父親からの愛情とやらを教えてくれたのは近藤。居場所を与えてくれたのは近藤。雪を一人の人間として初めて認めたのは、近藤だった。
「近藤勇は君の父親だ。けれど、今の私は大久保大和なのだよ。新撰組局長、そして君の父親の近藤勇ではない」



