想いと共に花と散る

 新撰組の時代は終わった。あの頃、志した未来を夢に見て戦い続けてきた新撰組は、終わってしまった。
 名を甲陽鎮撫隊と変え、局長、副長という肩書は無くなり、新たな体制で始まろうとした。
 肩書が消えても、彼らの名前は残り続ける。
 近藤と土方は命を狙われるようになった。名ばかりが大きくなり、名ばかりが有名になってしまったのだ。

「駄目だ……っ! 何処へ行っても新政府軍が待っていやがる!」

 何処へ行っても、何処へ逃げても、敵は追いかけてきた。
 町へ行けば近藤達の似顔絵を見せられて、知らないと拒めば執拗に問い詰められて、彼らと共に行動することすら難しくなった。
 新政府軍は、旧幕府軍の象徴的な存在である近藤と土方を消そうとしている。
 彼らが生き続ける限り、日本は留まり続けてしまう。鎖国を終わらせ、新たな時代に進むには彼らの存在が足枷なのだ。

「土方さん! 銃声が近づいてる。もう時間がないです!」

 新政府軍に追いかけ回され、それから逃げる生活にも慣れ始めていた。
 部屋の小窓から外へと視線を向ければ、四方八方を囲む新政府軍の姿が見える。
 このままここに留まれば、全滅してしまうのは目に見えていた。

「逃げるしかねぇ。雪、準備はできてるな!」
「はい!」
「近藤さんも行くぞ!」

 新撰組が解散してから、土方のことを副長と呼ぶものはいなくなった。それは、決定的に新撰組の終わりを意味している。
 そして、土方もまた『新撰組の副長、土方歳三』ではなくなっていた。
 以前までは“撤退”という言葉を使っていたのに、“逃げる”という一見すると情けない言葉を使うようになった。
 けれど、それは情けではない。新政府軍と旧幕府軍の力の差を誰よりも知っているからこそなのだ。
 いつだって、決断を下すのは土方だったから。

「っ、何してんだ近藤さん!」
「トシ。行ってくれ」
「はあ!? すぐそこまで新政府軍が来てんだ! あんたがいかねぇでどうする!」
「そうですよ! 近藤さんがいないと!」

 一秒でも遅れれば、それだけ新政府軍との距離は縮まる。
 雪は近藤の前に座って、手を引こうとした。けれど、近藤は坐禅を組んだまま微動だにしない。
 そんな近藤の手を引いたとて、雪の力では彼を立ち上がらせられるはずがなかった。

「近藤さん……! お願いだから、立って……っ!」