想いと共に花と散る

 だから、近藤や土方達が決めたことを雪が変えられるはずもなかった。

「行きてぇ奴は行け。もう、止めねぇからよ」

 その一言で、何人かの隊士は広間を出ていった。パラパラと散っていく様が見ていられなくて雪は目を逸らす。
 開いた空間には何着かの羽織が残された。

「斎藤。お前も行きたきゃ行っていい
「俺は、会津公のために最後まで戦います。忠誠を誓いましたから」
「そうだな」

 どんどん人が減っていく。見知った顔が減って、もう誰が誰だかも分からない。
 
「総司。お前はどうする」

 広間の入口にもたれ掛かっていた沖田は、土方にそう言われて顔を上げた。
 ほんの少し考える仕草を見せた後、ぎこちない微笑みを浮かべる。
 嫌な予感がしたのは、雪の気のせいではない。

「江戸に帰りますよ。もう、戦えないしね」

 力ない乾いた笑い声が広間の中に落ちた。
 確かに沖田の声であるはずなのに、別人のように聞こえてしまう。
 もう誰も何も言わなくなった。言うべき言葉も見つからず、静寂が室内を満たす。
 また人が減った。ずっと昔から共にいたはずの仲間達がいなくなっていく。
 それでも、隊士一人一人に今後を尋ねていた土方は、一度も雪に選択を委ねることはしなかった。
 あの夜、確かに雪の答えを聞いたから。もう聞き返す必要はなかったから。

「総司、君……?」
「ごめんね、雪」
「ち、違う。江戸に行くって」
「うん。俺は江戸に帰る。……そうだ、雪も一緒に来る? 江戸はいい所だよ。人がたくさんいて、いろんな商店があって、ここよりよっぽど平和だ」

 一瞬だけも迷わない自分がいたことに、雪は恐怖した。
 乾いた沖田の笑い声だけが頭の中で反響して、まともな思考力を奪っていく。

「なんてね。雪は土方さんの隣りにいる方がいいか」

 この期に及んでどうして笑える。どうして、そうやって今までと変わらない笑顔を向けられる。
 誰よりも泣きたいはずなのに、誰よりも笑えないはずなのに、一番笑っていたのは沖田だった。
 提案にも冗談にも何も言えない雪は、ただ沖田の微笑みを見ることしかできない。
 あまりにも多くのものを失いすぎた。離れていった者、戦士した者、別の道を進むことにした者。
 最期の瞬間、傍にいられなかった者達。井上にも山崎にも、雪は何も言うことができなかった。