想いと共に花と散る

 その言葉が決定打となった。
 雪の身体が一段階薄れた。着物も、結い紐も、全部そこに存在しているのに、雪という存在だけが薄れていく。
 顔を覆う手の向こう側が見えてしまって、土方は思わず目を伏せた。

「ひ、土方さん……私、私っ」
「雪、俺はここにいる」
「嫌だ、嫌だ!」
「俺はここにいるから、だから……俺を見てくれ」

 未来に帰りたいと願うのなら、帰られるように協力するつもりだった。
 家族がいて、待ってくれている人がいる時代で生きることが、雪の幸せなら尚更。
 
「帰りたくないっ……私、ここにいたいっ!」

 けれど、帰したくないと思っている自分がいた。離したくないと思っている自分がいた。

「離してやるかってんだ。俺が生きてる限り、未来なんざにてめぇを奪われてたまるか」

 壊してしまうかもしれない、そんなことなど関係ない。
 絶対に離してたまるか。そう態度で示すように、華奢な肩を抱き寄せた。
 
「未来だ? それが何だ。てめぇが消えたくないと、ここにいたいと言うなら、いさせてやれよ」

 未来に帰ることではなく、ここにいたいと願うということは、それだけ未来とやらは碌でもないものであるわけで。
 そんな碌でもない未来に帰してやる気など更々無かった。
 だから、後戻りできなくなろうと問わずにはいられないのだ。
 
「雪、選んでくれ。俺に付いて来るか、元の時代で平和に暮らすか」

 こんなにも雪は小さかったのか。
 簡単に腕の中に埋もれてしまって、少し力を入れれば壊れてしまいそうな危うさがあって。
 それでも懸命に生きていて。何度転んでも、立ち上がって。
 生きる気がなかったのに、生きたいと思うようになって。
 居場所になってやりたいと思えば、新撰組が居場所であると言うようになって。

「付いて行く、付いて行きたい! 私、土方さんの傍にいたいですっ!」
「なら、抗え。未来に帰らねぇと叫べ!」

 激しく脈打つのはどちらの心臓か。戦場で荒ぶるものとも、誰かに驚かされた時のものとも違う。
 感じたことのない胸の高鳴りだった。

「未来に帰りたくない!」

 温もりを感じた。ずっと曖昧だった温もりが、掌に広がった。
 視線を自身の胸元に落とすと、縋るように抱き付く雪の頭が見える。
 透けていない。掠れてもいない。
 今この瞬間、確かに雪は存在している。

「なら、もう迷わなくていい。俺の隣にいろ」

 それは、ずっと伝えたかった願いでもあった。