「会津藩が新政府軍に襲撃され───……犠牲になった者がっ」
その瞬間、城内の空気が変わった。
誰一人、息をしなくなったかのような錯覚に陥る。
「誰だ!」
土方の怒号が広間中に響き渡り、その場にいる誰もが身を強張らせた。
「あ、会津公の護衛に出ていた者達です……」
隊士の視線が、床に落ちる。
そこから先を言わせなくても、何が起きたのかは分かってしまった。
雪の耳鳴りが、急に大きくなる。
護衛。会津藩。そこに行ったのは、今この瞬間にいない者達。
「井上組長……山崎監察、その他数十名」
息が止まった。首を絞め上げられるように苦しくなって、吸うことも吐くこともままならなくなる。
嘘だ。そんなのまやかしだ。
違うって否定したいのに、こんな殺伐とした生活に慣れてしまって、受け入れてしまう自分がいた。
「以上です……っ」
報告に来た隊士は、逃げるように広間を出ていく。
残された者達は何を言うでもなく、ただ呆然としていた。
土方は一言も発さず、ただ拳を強く握り締める。
斎藤もまた、表情を変えないままに視線を伏せた。
その沈黙が何よりも雄弁だった。
信じたくない。でも、信じるしかない。
戦の中では、それが「報告」という形で突きつけられる。
「……ひゅっ……っはぁ……は、は」
「雪?」
息が苦しくなった。目の前が歪んだ。立っていられなかった。
雪はその場に崩れ落ち、胸元を押さえて息を荒げる。
突然のことに、目の前にいた土方と斎藤は呆気に取られた。
「おい! どうした!? 何が───」
激しく上下する雪の肩に、土方は触れようとした。
それなのに、伸ばした手は肩を掴むことなく空を切る。すかっという音が聞こえるほどに空振った。
「……ゆ、き?」
「あ、うぁ………あ………っ!」
完全に正気を失った雪は徐ろに立ち上がり、逃げるように広間を飛び出して行った。
何が起きたのか分からず、土方は自身の手に視線を落とす。
確かに存在しているはずだった。目の前にいて、呼吸をしていて、生きているはずなのに。
「副長……い、今のは」
斎藤ですら、その声音に動揺を滲ませた。彼は何も知らない、だからこの状況に理解が及ばないのは必然。
けれど、土方には理解できる理由があった。
「っ、雪!」
今一人にしてはいけない。何故だかそんな気がする。
離してしまえば、遠ざけてしまえば、もう届かなくなる気がした。



