想いと共に花と散る


「新撰組、只今戻ったぞ」

 大坂城に入るや否や、あちらこちらから慌ただしい足音が聞こえてきた。
 見慣れた浅葱色の羽織を着た新選組隊士と旧幕府軍兵士が、豆鉄砲を食らった鳩のような顔で土方達を見る。
 言葉にはされずとも、ここまで誰かが生きて戻って来るとは思っていなかったのだろう。
 
「土方さん!」

 そんな中、たった一人だけ希望に満ちた表情を浮かべて駆け寄ってくる影がある。
 数カ月姿を見ていなかったせいか、雪の身体が一段と小さく見えた。

「あ……え、っと……お、おかえりなさい」

 思わずぽかんと口を開けて固まってしまった。
 まさかそんな言葉を聞くことになるとは。土方の脳内で何度もその言葉が駆け巡る。
 俯いて口を噤む雪を見れば、その速度はより早まった。

「……ああ、ただいま」

 何と返したらいいのか分からず、口をついて出たのはそんなぶっきらぼうな言葉だった。
 荒々しくて棘のある声であるはずなのに、言われた雪は顔を上げて笑顔を見せた。
 今にも泣き出しそうで、目には涙が浮かんでいる。
 数カ月間、ずっと不安な気持ちにさせていたのかと思うとやるせない。守るためだと思って大坂に行くように言ったのに、その判断は間違っていたらしい。

「なぁんだ。勇敢な鬼の副長として語らないといけないみたいですねぇ」
「……総司」
「まあ、貴方はこんな所で死ぬような珠ではないと思ってましたよ」
「そうだな」

 土方の返答に、沖田はやけにつまらなさそうに唇を尖らせた。
 大坂へと向かう日の朝のような遣り取りを期待していたのだろう。けれど、実際は何を言っても力のない返答があるだけだった。

「……人数、減りましたね」

 徐ろに呟かれた沖田の言葉には返事しない。否、できなかった。
 嫌気が差して永倉と原田は離脱した。井上が会津藩の護衛に向かった。そんな無責任なことを沖田や雪には到底聞かせられない。
 聞かせてしまえば、きっと永倉達のように失望するだろうから。
 
「近藤さんは、どうしてる」
「奥にいます。もうずっと、顔を見せていませんけど」
 
 言いづらそうにしながらも、雪は素直に答えた。
 事前に贈られた文で近藤の無事は知っている。だから、雪の口から報告を受けても別段驚くことはなかった。