想いと共に花と散る

 それにだけは、気づきたくなかった。

「確か、雪殿は浪士組の頃からすでに副長の小姓だったはずですよね。将軍が上洛された頃ですから、今から五年は前になります。我々の見た目があまり変わらないのはそれだけ成長しきったからですが、成長期であるはずの雪殿が一切変わっていないのは、はっきり言って異常です」
「………十五のまま、成長が止まってるってことか」
「ここではない遠い世界から来た。だから雪殿はこの時代では成長できず、時間と共に存在が薄れていっている。……無理矢理理由付けつけたようにも聞こえますが、無くはない話でしょう」

 無理矢理こじつけたようなおとぎ話であるはずなのに、何処か納得してしまうのは何故なのか。
 土方や山崎にとっての五年と、雪にとっての五年は大きな差がある。雪からしてみれば、五年という月日は倍の年月が過ぎたようなものだ。
 周りが時間が進むと共に年を取っている中、雪だけは十五歳の子供のままだった。
 身長、髪、爪、生きている上で自然と伸びるであろう身体の部位が、出会った頃から一切変わっていない。
 皮肉にも、最初で最後に新選組の面々と過ごした春の日が思い出された。

『てめぇは、そのままでいてくれ』
『変わりませんよ、私は』

 何も、十五歳のまま変わらずにいてほしいという意図で言ったわけではなかった。
 変わらないでほしかったのは、人として生きるための幸せを当たり前だと思える心。楽しければ笑い、悲しければ涙を流し、腹が経てば怒る。仲間に囲まれて、存在を承認されて自分らしく生きていてほしいだけだった。

「……くそ」
「最早、時間の問題でしょう。我々だけではなく、雪殿の限界も近いです」

 どうして離れるような真似をしてしまったのだろう。
 こんなことを知ってしまうのなら、目の届く自身の傍にいさせるべきだった。
 
「あいつの限界が来たら、どうなる」
「……分かりません。少なくとも、この時代の人間でないのなら消えてしまうと考えるのが自然でしょう」
「消えちまったら、あいつはこれまでのことを全部忘れちまうのか……」

 限界を迎えてこの時代から雪という存在が消えたとして、その未来とやらに帰るだけだったら心配する話ではない。
 本来生きるはずの時代で生きる。それこそ、雪の人として生きられる幸せであるはずだ。
 いつまでもこの時代に縛り付けるよりも、元の時代に帰る方が雪のためになる。

「どうされますか、副長。大坂に文を送ってこちらまで呼び出すか、それとも監視をつけるか、方法が無いわけではありません」
「必要ねぇ」
「……っ! 手を打たないと仰せですか」
「未来に帰る。それがあいつの幸せになんなら、それでいいじゃねぇか」

 ここまで連れ回して、何度も大事件に巻き込んできたのだ。
 もう解放してやったっていい頃だろう。雪が未来に帰りたいと言って、その方法が目の前にあれば、土方は協力する。
 浦島太郎の冊子に目を落とした土方は、強く奥歯を噛み締めた。