想いと共に花と散る

 不意に、いつの日か聞いた沖田の言葉が蘇る。

『最近ちょっと、様子変じゃないですか?』

 あの時は、いつものいたずらだと思って切って捨てようとした。冗談だと思ったのだ。
 けれど、それは間違いだった。

『人を見てない、っていうか。避けてる、の方が近いかな』

 土方の眉が僅かに寄った。自分の想像を逸脱するものを見聞きした時にする、土方の無意識な癖だ。
 
「執拗に雪殿の体調を気にしたり、夜中に部屋に籠もって名簿を見ていたのは……恐らく雪殿の正体に勘付いていたからなのではないでしょうか」

 どうしてあの頃に気付けなかったのだろう。
 ずっとおかしかったはずだ。何度も助けを求められていたはずだ。
 もう刀を握れないと分かって前線から退くと言った日、山南は確かに助けを求めていた。
 志が折れてしまって、気づくべきではないことに気付いてしまって、それらを一人で背負うことになってしまって。
 最後には限界になったことで、逃げなければ己を保てなくなるほどに追い詰められたのだ。

「これまでに何度か、平隊士が交わしていた会話を耳にしたのですが。……“雪殿が透けて見える”といった発言が目立っていました」
「透けて、見える……」

『なんか、薄くないです?』

 否、山南だけではない。他にも気付いている者はいた。
 沖田も山崎も、それ以外の隊士も、土方も。本当はずっと前から気付いていた。
 雪の存在が“消えかけている”ことに。

「単刀直入に申し上げます。───……雪殿は、未来の人間なのではないでしょうか」
「……は?」

 静かに発された山崎の言葉が、やけにすんなりと頭の中に落ちた。
 突拍子もないことを聞かされたはずなのに、何故か笑い話にできない。
 冊子を握る手に力が籠もった。

「副長は、浦島太郎の話を知っていますか?」
「昔話、だよな。まあ、知っているが……」
「では、逆浦島太郎現象というものはご存知で?」
「なんだそれは」

 嫌な予感がした。できることなら、今すぐにでもこんな話は切り上げたい。
 けれど、聞かなければならない気がした。
 冊子を閉じて、土方は山崎に向き直る。感情の起伏が全くと言っていいほど感じられない山崎が、珍しく戸惑いを見せた。 
 一瞬土方から目を逸らした山崎は、もう一度懐へと手を入れる。
 そして、先程手渡した名簿とよく似た紐閉じの冊子を取り出した。