想いと共に花と散る

 そしてやはり彼もまた、歴史で有名な名を口にした。
 見た目は十代後半から二十代前半と若いが、後の歴史にその名を刻むのだからなんとも感慨深いものだ。
 それと同時に敵には回してはいけない相手であると直感した。今は刀を持たず手ぶらの状態だが、相当な手練であるのは纏う雰囲気から察せる。

「雪か。うん、覚えた」

 くすりと笑いながら沖田はなんてことないように言う。
 沖田という人物は、初めて会った時から笑みを浮かべつつ、何処か雪を警戒しているようだった。しかし、今の彼からはそういった気配は感じられない。嘘偽り無く、思ったことをそのまま口にしていた。

「じゃあ、次は俺だな。俺は藤堂平助。雪、だったか? これからよろしくな」

 藤堂と名乗った隊士は、無邪気な笑顔を浮かべて言った。
 まだ完全に雪のことを信用したわけではないはずなのにそう言うのは、彼の優しさ故だろう。
 土方に無茶なことを頼まれた時だって、不審がってはいたものの素直に従っていた。振る舞いや佇まいの割に、真面目な面がよく見られる人物だ。

「よろしくお願いします。えっと、沖田さん、藤堂さん」

 年上であろう二人をどう呼んでいいか分からず、無難に苗字で呼んでみる。
 すると、苗字で呼ばれた二人は目を丸くして突然立ち止まった。雪は立ち止まった二人に気付かず正面からぶつかる。

「うわっ! す、すみません」
「いや、こっちこそごめん。……でも、沖田さん、沖田さんか………」
「沖田さん?」

 道の真ん中に立ち止まったまま、沖田は何か考え込んでぶつぶつと呟き始めた。
 もう一度呼んでみるが、彼は自分の世界に入っているのか返事をしない。
 隣りにいる藤堂へと視線で助けを求めると、何かを察した彼はバツが悪そうに雪華から視線を逸らした。

「あー、えっと、なんだ。俺達ってそんな歳変わらなさそうだから、別に畏まらなくていいよ。あと、敬語もなしな」
「えっ、でも……」
「そうそう。俺のこと、沖田さんじゃなくて総司って呼んでほしいな」
「俺も平助がいい。藤堂さんなんて逆に返事しづれぇよ」

 そんなに歳は変わらないと言われても、相手が年上の男性であることには変わりない。
 元の時代ではクラスの男子とほとんど関わらなかったのに、突然年上の男性を下の名前で呼ぶなんて気が引ける。
 しかし、二人は期待の眼差しを雪へと向けていた。それはそれは輝きに満ちた眼差しである。

「……分かった。でも、呼び捨ては悪いから君付けでなら」

 戸惑いつつもそう答えれば、二人は満足したように笑って再び歩き始めた。