想いと共に花と散る

 淀城に辿り着いた頃には、すっかり日が落ち辺りは宵闇に包まれていた。
 城の将軍率いる旧幕府軍がすでに集まっており、新選組隊士の中には安心したように息を吐く者もいる。
 しかし、旧幕府軍兵士は援軍として駆けつけた新撰組を迷惑そうな怪訝な面持ちで見ていた。

「お前ら、今日は休め」

 土方がそう言うと、隊士達は各々自由な場所に座って休息を取り始めた。
 伏見奉行所を出てからここまで、ずっと気を張ったままだったのだ。彼らだけでなく、土方も疲弊しきっていた。

「副長。少々よろしいですか」
「……山崎? 珍しいな、お前から呼び出すのは」

 羽織を脱ごうとしていた土方の元に、疲労を感じさせない無表情の山崎が近寄った。
 彼に言われるままに広間を出た土方は、庭へと出て人気のない木々の裏に身を寄せる。
 向かいに立った山崎は、懐から古びた冊子を一冊取り出した。

「これは……新撰組の名簿……!? 山南さんのじゃねぇか」

 山崎から冊子を受け取り、ぱらぱらと適当に頁を捲る。
 土方だからこそ分かったとも言える。この名簿がかつて新撰組総長を担っていて、局中法度に背き脱走して罰された山南直筆のものであると。

「申し訳ございません。個人的に気になることがあり、持ち出してきたんです」
「気になることだ?」

 何故これを山崎が持っていて、わざわざ土方に見せるのか。気になることはあれやこれやと浮かんでくる。
 しかし、それよりも重要なのは、山崎の含みのある発言の方だった。

「ええ。……雪殿ことです」

 一瞬で表情が引き攣ったのが自分でも分かった。

「何か、気づくことはありませんか?」
「気づくこと………っ!」

 几帳面さが感じられる達筆な字で、過去に所属していた新選組隊士を含む大勢の名前が記録されている。
 任務中に怪我を負い、前線を離れてから山南はこうした雑務を担うようになった。
 百人余りに膨れ上がった隊士を平等に認知していたのは、はやり山南であったのだ。

「あいつの名前がねぇ……っ」

 そんな山南がこんなことをするはずがない。
 けれど、名簿という記録には刻まれるべき名が刻まれていなかった。

「以前、何度か井上殿から相談を受けておりました。『山南殿が自室に籠もって唸っている。様子を見てやってくれ』と」
「……何か分かったのか?」
「山南殿は、いつも名簿を開いては何かを迷うような仕草を見せました。何度も筆を握り、書こうとしては辞める。そんなことを何度も繰り返しては、意味深なことを呟いておりました」