「……ざっけんな」
馬鹿馬鹿しい。心底笑える。
どうだ、近藤さんよ。
あんたが信じて守ろうとしたお上様は、俺達を裏切ったぜ。
なぁ、どうすんだ。どうすりゃいい。
このまま進むか? 正面突破ってのも、武士らしくていいじゃねぇか。
嗚呼、もう武士とか関係ないのか。
守るものなんて、もう何処にもありゃしねぇんだからよ。
「副長…!」
この場にいる者の中で、一番上の立場にいるのは土方である。
隊士が彼に指示を求めるのは必然的なこと。土方もそれを理解している。
けれど、もう考える気力すら消えかけていた。
「退くぞ! 転向して淀城へと向かう!」
こうするしかない。これしか道はない。
そう自分自身に言い聞かせて走り出した。錦の御旗に背を向けて、ただ我武者羅に走る。
『私が帰る場所になります。だから、絶対に死なないでください』
変わらない。あの小姓だけは、どれだけ時間が経とうと変わらなかった。
恐ろしいほどに、何も。
「副長。このまま進みますか」
「それ以外ねぇだろう。もう、幕府も信用ならねぇしな」
一行は何処へ繋がっているのかも分からない木々が生い茂る小道を進む。
先頭を進むのが土方から斎藤へと変わり、忙しなく動いていた足はゆったりとし始めた。
日も沈み始める。これだけ辺りが暗くなれば、新たな追手を恐れる必要はないだろう。
「───帰る場所、か」
あんなにも真っ直ぐな目を向けるようになった。血を見ても、戦場を見ても逃げ出さなかった。
初めの頃は滅多に笑わず、自分の意志なんて主張しようとしなかったのに。
「生意気なんだよ……ほんとに」
違う。変わっている、確かに変わった。
ただ感情表現が豊かになっただけではない。怯えたり戸惑ったりすることが減ったわけでもない。
(生きてんだ。……俺も、あいつも)
殺してほしいと浪士に懇願し、代わりに殺してやると言ったら楽になりたいと返した。
あの時は理由が分からなくて考えることを辞めたが、今では分かる。
あいつは、雪は生きることが何なのか分かっていなかったのだ。
親に愛されず、人の人情に触れないまま成長し、自分自身を見失った哀れな子供。
それが今では土方の指示に逆らうようになった。自分の意志を持つようになったのだ。
これを成長と言わずに何と言うのか。分かるのはきっと土方だけだろう。



