想いと共に花と散る

 可愛らしい少女から美しい女性へと成長していた小夜は、雪の方を掴んだまま静かに涙を流した。
 怒涛の日々を過ごしていた雪と違って、小夜はこの五年間ずっと雪の身の心配をしていたのだ。
 
「ごめん。本当にごめん」

 雪には最早謝ることしかできない。変わってしまった小夜を前に戸惑いと罪悪感が押し寄せた。

「次は、何処へ行ってまうん?」
「大坂」
「また遠いとこへ行ってまうんやな」
「うん」
「もう帰ってこんの?」
「そう、だと思う」
「会える? また会えるん?」

 答えられなかった。何も言葉が出てこなかった。
 会えると聞かれて、会えるよと答えるだけのはずなのに、どうしてか言葉は続かない。
 小夜とて分かっていたのだ。
 会えるかと聞いて雪が答えられないことなど。もう、簡単に会えなくなってしまうことを。
 それでも問うたのは、自分はいつまでも待っているという意思表示。
 どれだけ年をとっても、遠い場所にいても待ち続ける覚悟の表れである。

「ねえ、小夜。お願い聞いてくれる?」
「ええよ」
「これ、小夜が持っていて」
「……こ、これ」

 抱えていた包を足元に置いた雪は、項に手を掛けると桜色の宝石がはめ込まれたネックレスを外した。
 何年も毎日肌見放さず身に着けていたため、汗などによって色褪せている。それでも、宝石の輝きは失われていない。
 小夜は差し出されたそのネックレスを見て唖然とした。

「きっと、これから行く場所に持って行っちゃったら失くすか壊しちゃうから」
「ゆ、雪」
「小夜が持っていて。これは私の我儘だけど、小夜には帰る場所になってほしいんだ」

 無理矢理口角を上げて笑って見せれば、小夜の目からは大粒の涙が零れ落ちた。
 初めて彼女の涙を見た時は、年甲斐もなく泣き喚いたというのに、今は声すら上げずに涙を流す。
 そんな違いですら、変わってしまった今を否応にも気付かされてしまった。
 ネックレスを握る小夜の手に自身の手を重ね、雪は子供に言い聞かせるように言った。

「ずっと待たせることになるかもしれない。それでも、私は覚えているから。小夜がしてくれたこと、教えてくれたこと、全部覚えているから」
「……うん」
「だから、元気でね」

 そう言って手を離す。一瞬、小夜が引き留めようと手を伸ばしたが、その手が雪に触れることはなかった。

「待っとる。ずうっと待っとるよ」

 小さな小夜の言葉を背で受けながら、雪は沖田と共に歩き始めた。
 振り返ることはない。振り返ってしまえば、名残惜しくなって立ち止まってしまいそうだった。
 たとえ今生の別れになるとしても、あのネックレスがある限り繋がっていられる。
 そう信じて、雪はもう一度沖田の手を握った。