想いと共に花と散る

 繋いでいたはずの手は離れてしまって、距離が開くのは一瞬だった。
 立ち尽くす沖田の傍を素通りし、雪は歩き出す。いつの間にか、大坂へと向かう列が遠くに行ってしまっていた。

(なんで、こうなっちゃうのかな……)

 どうして言ってしまったのだろう。こうなることは端から分かっていたはずだ。
 自分は未来からこの時代にタイムスリップしてきた。そんな話を聞かされて、沖田が受け入れるわけがない。 
 にも関わらず、中途半端に話を切り上げて曖昧に濁すなど、逃げているようにしか見えない。
 何がしたかったのか、雪は自分ですら分からなかった。

「ごほっ……」

 背後で苦しげな咳払いが聞こえた。歩みは止めず、首だけで振り返れば口元を抑える沖田の姿が目に入る。
 やはり、戦えるような状態ではない。
 こうして大坂への道中ですらも、彼の足取りは覚束なかった。

「あっ……」

 沖田から目を話して再び前を向いた時、雪は思わず立ち止まった。

「小夜」

 道の先でこちらを見つめる一人の少女がいる。
 一瞬の沈黙の後、その少女は雪を目掛けて走り出した。

「雪! なんで言ってくれんかったん!?」

 雪の肩を掴んで叫ぶ小夜の目には、微かに涙が滲んでいた。
 遅れて追いついてきた沖田が、背後でバツが悪そうに目を逸らす。小夜が何を言うのか想像できたからだろう。

「うち、ほんの数日前に知ったんやで。新撰組が壬生を離れて西本願寺に移ったこと。昨日なんかは雪に会いに行こう思うとったのに、伏見で戦が始まって……。もっと、早うに言うてくれたってよかったやん」
「ごめん、小夜。色々忙しくて、会いに行く暇がなかったの」
「無理に顔を出してほしかったんやない! 一言でいいから何処におんのか言ってほしかったの!」

 そういえば、最後に小夜に会ったのは五年ほど前の文久三年頃だった。
 まだ新撰組として動き出してから日が浅く、京の人々にも受け入れられていない時代。
 あの頃は今に比べてずっと平穏だった。山南や藤堂達が生きていて、これからの未来に思いを馳せていた頃。
 
「黙って、どっかに行こうとせんとって……」

 涙混じりのその言葉は、雪の心を簡単に抉った。
 いつの間にか、同じくらいだったはずの身長に差ができていて、無意識の内に雪は小夜の顔を見上げている。
 五年という月日が過ぎていれば、人は皆成長していた。
 ただ一人、雪だけを除いて。