想いと共に花と散る

 誰だって分かっている。沖田だって、雪だって、山崎だって、皆分かっている。
 病に冒されて戦えないから突き放すわけではない。役に立たないから突き放すわけではない。
 ただ、願っているだけ。また刀を握って戦える未来を、一番隊組長として戦場に立てる明日を。

「雪」
「えっ、あ、はい?」

 静寂の中、土方の落ち着いた抑揚のない声が落ちる。
 首だけで振り返った土方は、ほんの一瞬だけ“鬼の副長”の一面を見せた。

「てめぇも大坂に行け。近藤さんと総司、それ以外の隊士の看病に当たれ」
「──……え?」

 さーっと全身から血の気が引いていくのを感じた。
 意味が分からない。なんで、どうして。違う、そんな事望んでいない。

「わ、わた……私、は………」

 ただ、役に立ちたくて。戦場に出られない分、一人でも多く生き残って欲しいだけで。
 何も守ってほしいと言ったわけではない。
 今度こそ傍にいると決めた。だから、ここまで付いて来た。
 それなのに、どうして突き放すようなことをする。雪は変わろうとするのに、どうして土方はいつもその場に留まらせようとする。
 後悔しか残らないと分かっているのに、どうして。

「結城雪、任務を命ずる。お前があいつらの帰る場所になれ」
「……っ! 土方さん!」

 もう一度掴み掛かろうとした沖田の腕を土方は難なく受け止めた。
 視線は下げたまま、土方は沖田の腕を掴む手に力を込める。見る見る内に沖田の表情は苦痛に歪んだ。
 
「なあ、分かんだろ。俺ぁ二つも三つも抱えらんねぇんだよ」

 それは、鬼の副長と恐れられてきた土方が初めて零した弱音だった。
 眠る近藤の他に雪と山崎と沖田くらいしか部屋にいないため、意思に反して零れてしまったのだ。
 奥歯で毒虫を噛み潰したような、苦々しい表情を浮かべるのは土方も同じ。

「重症者達は大坂へ。────……俺達は撤退する」

 その一言で、誰かの心の中で確かに形作られていたものが音を立てて崩れた。
 津波を町へと近づけないために堤防は存在する。その津波という名の現実から身を守っていた堤防が、この時確かに崩れ落ちた。

「ま、待ってっ! 待ってください! 俺は、俺は行くなんて言っていません!」
「山崎。重症者の名簿をまとめてくれ。明日になったら、大阪へと護送する」
「で、ですが………」

 背を向けたままの土方は、拳を強く握って肩を震わせた。
 もう、何も言う気力がない。そう察してくれと言わんばかりの背中がそこにはあった。